(その17)現実を把握する
2021.8.1
現実を正しく把握するというのは、難しいものです。
事実はひとつだと思っているかも知れませんが、必ずしもそうではありません。「報告された事実」「期待されている事実」「事実とされているような事実」など、実はさまざまな事実もどきがあふれています。
人は、自分に与えられた情報から判断するしかないし、どうしても期待を込めて選びたがる傾向があります。
安倍内閣の獣医学部新設の顛末を見ていると初期の段階で現実の重要性を見誤っていなければこれほどの大騒ぎにはならなかったでしょう。
私が繊維事業の企画の仕事をしていた時に仕えた本部長のことを思い出します。
東レの原料を使っているタイヤコードメーカーに、ある重要な技術ノウハウをライセンスするかどうかを決める会議がありました。そのメーカーがアメリカの会社を買収したことで東レに依頼してきた事案でした。
営業サイドは大事な顧客の要望でもあり、アメリカでの拡販のためにもライセンスしてやりたい、一方技術サイドは自社の重要な技術をそう簡単には渡せないと主張しました。
本部長は特別に長時間とってライセンスすることのメリット、デメリットをすべて洗い出させる議論をしました。最終的には顧客への販売量は落ちるかもしれないが、自社技術の流出によって失うことの大きさを考え、ライセンスしないことを決断したのです。
この本部長は重要な案件になると、とことん時間をかけてお互いの主張をぶつからせ吟味していました。その時に「その主張は本当に正しいのか。現実なのか」を繰り返し確認するのが常でした。「ライセンスしなければ販売量が落ちる」と営業が言えば「本当にそうなのか。東レの原料を購入するメリットがあるから購入しているのではないか。他社にシェアを取られると言うが、どの会社にどんな理由で取られるのか」と問い続けます。技術サイドには「その技術の特許の価値を科学的・理論的に分析しろ」と求めました。
そういう議論を続けるうちに、次第に選ぶべき結論が見えてきたのです。
リーダーにとって最も大事なことは、いま何が現場で起こっているかを正しくつかむことです。ところが、組織が大きくなればなるほど、自分自身の目でみることは難しくなります。そこで人を使って知ることになります。
だからこそ、現場には自分の思い込みではなく現実通りを報告できる部下、信頼できる部下を配置し、事実を正しく報告することを徹底させる必要があるのです。忖度など無用、現場は勝手に情報を取捨選択せず、いい情報も悪い情報もできるだけ正確に報告することが必要であると日々指導しておかなければならないのです。
そして会社の中で何が起こっているのか、マーケットでは何が起こっているのかを正しく把握するようなそのような習慣を組織の中に持つことが大切です。
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