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管理職の心構え
 
(その15)運命を引き受ける

2021.8.1

私は、人生とは与えられた環境の中で、自分の使命を全力で果たしていくことであると考えています。
「人は何のために生きるのか」などと、こちらから問えるものではないように思います。
「人生から問われていること」に全力で応えていく。つまり「自分の人生に与えられた使命をまっとうすること」が大事なのではないでしょうか

私はこのことを、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』から学びました。この本は、優秀なユダヤ人心理学者であったフランクルが、妻、両親とともに強制収容所へ送られてからの約二年半、壮絶な体験を乗り越えて奇跡的生還を遂げるまでの記録と考察の書です。
収容所では、1日に三百グラムのパンと水のようなスープ、半年に一枚のシャツしか与えられず、夜は折り重なるようにして眠るという苛酷な環境で、辛く重い労働が課せられました。ガス室に送られるか別な収容所に移されるか、つまり「生と死」はちょっとした偶然で決まりました。明日の命の保障もない。そんな状況下でクリスマスに解放されるとのうわさが広まり、それが裏切られると、急に力尽きて死ぬ人が多かったといいます。
フランクルは、収容所の仲間に「どうしたら精神的な崩壊を防げるか教えてほしい」と問われ、「私個人としては、希望を捨て、投げやりになる気は全くない。ありがたいことに未来は未定だ。人間が生きることには常に、どんな状況でも意味がある」と訴えました。

どんなに悲惨な状況下でも、フランクルは常に冷静な視点で収容所での出来事を記録し、囚人たちが何に絶望し、何に希望を見出したかを見つめ続けました。それはいつの日か我が身に起こったことを本に著し、人々に伝えたいという強い想いがあったからです。
その目標が、フランクルに生きる力を与え続けました。そして解放の後、『夜と霧』ををわずか九日間で書き上げたのでした。

比ぶべくもないことですが、私の人生にも厳しい時期がありました。39歳で課長になり、よしこれからという矢先に妻が肝臓病とうつ病を患い、入退院を繰り返すようになったのです。
私には自閉症の長男を含む3人の子どもがいて妻の看病と子どもたちの世話のため、毎日戦わざるを得ませんでした。
それでも長い年月を要しましたが、幸いにも妻は回復に向かい、今ではすっかり元気になりました。長男もたくましく生きてくれています。私があの辛い時期を乗り越えられたのは、「自分の運命を引き受けよう」と思ったことが大きかったのです。
人は、みなそれぞれ違う条件を抱えて生きています。経済状況、家族関係、健康状態、才能、容姿、みんな違います。
生まれてくる時代や国も天与のもの。それを嘆いても仕方がありません。
与えられた条件の中で、努力するに値するような目標や夢を見出すことができたとき、それが苦しみを乗り越える力となり、人生にすばらしい果実を実らせてくれるのです。




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