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佐々木常夫流・7つの習慣
 
佐々木常夫流・7つの習慣(その8)

2015.9.24

部下に主体性を持たせるには
機会を与えてあげること



■部下のモチベーションを上げる指示の仕方と、下げる指示の仕方がある

 コヴィー氏の第1の習慣「主体的である」は、自分が主体的な人間になるために必要な考え方や姿勢について述べたものだ。ただし組織のリーダーの場合は、本人が主体的な人間になると同時に、部下の主体性も育んでいかなくてはいけない。
 そこでこの項目では、『7つの習慣』の本の中で書かれている内容とはちょっと外れるが、リーダーが部下の主体性を育んでいくために、私が大切だと考えていることについて少し述べたい。
 私は部下の主体性を育むためにもっとも効果的なのは、彼らに対して「主体性を発揮できる機会を与えてあげること」だと思っている。
 たとえば私が知っている社長のAさんとBさんは、まったくタイプが異なるリーダーである。一定以上の規模の会社の場合、新年の挨拶や決算発表の場などで社長が述べるスピーチ原稿は、通常広報室や経営企画室の担当者が作成するが、Aさんはこのスピーチ原稿を、訂正の赤字で原稿が真っ赤になるぐらいに直す。Aさんは文章がうまいので、彼が直すと見違えるように原稿が良くなる。
 一方Bさんは、自分が伝えたいメッセージが大筋で合っていれば、それで良しとする。明らかな間違いを除けば、ほとんど原稿に手を入れない。
 AさんとBさんのうちどちらが優れたリーダーであるかといえば、私はBさんだと思う。原稿の作成担当者からすれば、自分が書いた原稿がほとんど直されずにスピーチに使われたとなると、ものすごくモチベーションが上がる。そして「次にスピーチ原稿を書くときには、もっと完成度の高いものを目指したい。社長にも満足してもらいたいし、スピーチを聴いている人たちにも、社長のメッセージがより強く伝わる文章を書こう」という気持ちが湧いてきて、高い当事者意識を持って仕事に取り組むようになる。つまり主体性が育っていく。
 一方、自分が書いた原稿が真っ赤になって返ってくると、担当者のモチベーションは大きく下がる。また「自分がどんな原稿を書きたいか。どんな原稿を書けば、スピーチを聴いている人たちの心に届くか」ではなくて、「どうすれば社長からダメだしを食らわなくて済むか」のほうに意識が向かう。つまりリーダーの顔色を伺いながら仕事をするようになるわけです。これでは部下の主体性は育たない。


■リーダーは部下にミッションやビジョンを示すのが仕事

 もちろんリーダーにとって言葉は命のようなものだ。自分の考えや思いをメンバーと共有するためには言葉で伝えるしかない。だからAさんが部下の書いてきた原稿を一字一句直したくなる気持ちも、わからなくはない。けれどもそれでも私は「それはリーダーのやるべきことではない」と思う。
 リーダーの仕事は、チームとしてのミッションやビジョンを示すことだ。リーダーが明確にミッションや方向性を示せば、部下はその考えや思いに沿って物事を遂行しようとする。だから部下に正しく物事を遂行してほしいのであれば、部下の取り組んでいることにあれこれと細かく口出しをするのではなく、自分が部下に対してよりしっかりと確実にミッションやビジョンを伝えることに注力すべきである。
 スピーチ原稿で言えば、部下に原稿を指示する際に、自分の要望をどれだけ伝えられるかが勝負になる。また原稿を発注するときだけではなく、普段から自分の思いを伝える努力をしていることも重要である。そして部下が一生懸命取り組んだ結果上がってきたものに対しては、あまり細かく注文は出さない。こうした姿勢が、部下との信頼関係を育み、部下の主体性を引き出すことにつながる。
 ただし一口に部下といっても、いろいろなレベルの部下がいる。私は「主体性を発揮する機会を与えてあげることが、部下の主体性を育む」と述べたが、右も左も分からない新入社員に対して、大きな方向性を示しただけ仕事を任せたとしたら、彼を途方に暮れさせてしまうことになる。そこは細かく手を突っ込んでいかなくてはいけない。
 だから部下のレベルに合わせて多少のチューニングをする必要はある。ただし基本は、方向性を示したら、後は部下を信じて任せることが彼らの主体性を育むことにつながる。


第1の習慣…主体的である 実践ポイント

●周りが動くのを待っていたら、周りから動かされるだけになる
●物事には、自分で変えられるものと変えられないものとがある
●「影響の輪」は、どんな立場でも広げられる
●経験は、自分の判断や行為の正しさを分析してこそ財産になる
●間違っても機会を与えることで主体性は磨かれる


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