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佐々木常夫流・7つの習慣
 
佐々木常夫流・7つの習慣(その4)

2015.6.1

次章以降でいよいよ具体的に紹介していくことになる「7つの習慣」は、インサイド・アウトを基本にしながら人格を磨くことを習慣化することによって、個人の成長と良好な人間関係、そして永続的な成功を得るための方法について述べたものだといえる。


■習慣には「私的成功の習慣」と「公的成功の習慣」がある

コヴィー氏の「7つの習慣」は、以下の習慣から構成されている。
第1の習慣:主体的である
第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
第3の習慣:最優先事項を優先する
第4の習慣:Win−Winを考える
第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
第6の習慣:シナジーを創り出す
第7の習慣:刀を研ぐ

このうち第1、第2、第3の習慣は「私的成功の習慣」(個人の習慣)、第4、第5、第6の習慣は「公的成功の習慣」(チームとしての習慣)と位置づけられている。そして第7の習慣の「刀を研ぐ」とは、第6までの習慣を身につけたところで、その習慣にさらに磨きをかけるための習慣のことである。
まず第1〜第3までの「私的成功の習慣」が目標にしているのは、「自立した人間」になることである。
人は誰しも、他者に100%依存しなければいけない赤ん坊としてこの世に生を受ける。
それが年月とともに肉体面や精神面で成長していき、だんだんと自立していく。
ただし年齢的に成人さえすれば、誰でも自然と自立を果たすことができるかというとそんなことはない。大人になってからも、自分の生き方を自分で決められなかったり、何か問題が起きたときに人のせいにしてしまう人は世の中にたくさんいる。
そうした人は、まだ「自立」ができておらず、「依存」の段階にあるとコヴィー氏は言う。
「依存はあなたというパラダイムを意味する。あなたに面倒をみてほしい、あなたに結果を出してほしい、あなたが結果を出さなかった、結果が出ないのはあなたのせいだ、というパラダイムである。自立は私というパラダイムである。私はそれができる、私の責任だ、私は自分で結果を出す、私は選択できる、ということである」(『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』P51〜53)

そこで第1の習慣から第3の習慣では、「依存」の状態から脱し「自立」をすることを目標とする。自分の人生を主体的に引き受け、自分の人生には自分が責任を取り、自分の力で結果を出せる人間になることを目指すわけである。
次に第4〜第6までの「公的成功の習慣」が目標にしているのは、「自立」の段階からさらに一段階上の「相互依存」の段階に達することだ。
人は一人では生きていけない。何かを大きな物事を成し遂げるためには、他者と協力し合うことが不可欠となる。性格も違えば価値観も異なる他者との共同作業は、骨が折れることも多いものだ。しかし他者とうまく関係を築くことができれば、一人で物事に取り組むよりも、何十倍もの成果を挙げることが可能になる。

「相互依存は私たちというパラダイムである。私たちはそれができる、私たちは協力し合える、私たちがお互いの才能と能力を合わせれば、もっと素晴らしい結果を出せる、と考える」(『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』P53)

 つまりコヴィー氏は、人間の成長段階には「依存」、「自立」、「相互依存」の3つの段階があるという。そして「7つの習慣」は、私たちが依存から自立、相互依存へと成長の階段を駆け上っていくときに、その後押しをしてくれる習慣になるというわけだ。


■チームで仕事をしている人なら、相互依存をもっと意識しよう

 第1の習慣から第3の習慣までが目標としている「自立」と、第4の習慣から第6の習慣までが目標としている「相互依存」とでは、明らかに相互依存のほうが達成難度が高い目標である。
自立の大切さについては多くの人が意識しているが、相互依存の大切さとなると意識している人のほうが少数である。たとえばチームを任されているリーダーも、自分が自立したリーダーとして「いかに現状把握力や決断力を鍛えるか」とか「どうやってメンバーを引っ張っていくか」といったことについてはすごく一生懸命考える。
しかし本来チームで仕事をすることのメリットは、異なる価値観やバックグラウンドを持つ人間が集まることで新しい発想や相乗効果が生まれ、1+1が2ではなく、3や4の成果が出せるところにある。だからチームリーダーはもとより、チームで仕事をしている人であれば、相互依存の大切さをもっと意識する必要がある。
その点『7つの習慣』では、自立を果たすための習慣(第1〜第3の習慣)と同じぐらいに、相互依存を実現するための習慣(第4〜第6の習慣)にも力を注いで説明している。
そこもまた『7つの習慣』という書籍の大きな魅力の一つであるといえる。


「P/PCバランス」を意識しながら
「7つの習慣」を実践していく

 

■「成果」は、「成果を生み出す能力」を高めることで生まれる

 私たちは「成果」を出すためには、まず「成果を生み出す能力」を上げる必要がある。牛においしいミルクを出してもらうためには、栄養たっぷりの餌を与えなくてはいけない。
テストで良い点数をとりたいなら、普段から勉強して学力を高めておくことが大切になる。
この成果(Production)と成果を生み出す能力(Production Capabillty)の関係のことを、コヴィー氏は単語の頭文字をとって「P/PCバランス」と呼んでいる。PC(成果を生み出す能力)なくしてP(成果)はありえない。
「7つの習慣」も、PCを高めることを重視した習慣であるといえる。
まず第1から第3までの習慣によって、自分の人生を主体的に引き受け、自分の力で結果を出せる能力を高めていく。そして第4から第6までの習慣によって、他者と有意義な関係を結び、お互いに協力しながらより大きな結果を出せる能力を高めていく。こうしてPCを高めるからこそ、自ずとPも出やすくなるわけである。
ところがコヴィー氏は、イソップ寓話の「ガチョウと黄金の卵」の話を例にしながら、実際にはすぐに成果を求めるがあまりに、P/PCバランスに反した行動をしている人が多いという。ちなみ「ガチョウと黄金の卵」は以下のような物語だ。
「ある貧しい農夫が飼っていたガチョウが、毎朝1個ずつ黄金の卵を産むようになった。農夫はその卵を市場の持って行って売ることで、やがて大金持ちになった。しかしそのうち農夫には欲が出てきて、1日1個しか卵が手に入らないのがじれったくなってきた。そこである日、ガチョウを殺して腹の中にある卵をいっぺんに手に入れようとした。ところが腹を割いてみると中は空っぽで、黄金の卵は一つもなかった。しかもガチョウを殺してしまったために、もう二度と黄金の卵は手に入らなくなってしまったのだった」
つまり農夫はP(成果)ばかりを追い求めてしまったために、PC(成果を生み出す能力)を台無しにしてしまったわけである。

■できる部下だけ使っていたら、強いチームにはならない

 この農夫と似たようなことをやっている人は、世の中にたくさんいる。たとえば組織のチームリーダーの中には、部下が10人いたとしたら、そのうちの優秀な2〜3人ぐらいをフルに使うことで、すぐに成果を出そうとする人がいる。こうしたやり方をすれば、確かに短期的な成果は出るだろう。しかし優秀な2〜3人以外の部下は、重要な仕事を与えられずに成長の機会を奪われてしまうから、チーム全体の底上げは図ることはできない。また彼らのモチベーションも大きく下がってしまう。
これでは目先の成果を挙げることができても、成果を持続させることや、より大きな成果を期待するのは難しくなる。またもし優秀な2〜3人の部下が異動によってチームを去ってしまったら、チーム力はがた落ちしてしまう。
だから目先の成果ではなく、最大限の成果を長期にわたって得たいのであれば、PCを上げることに力を注ぐ必要がある。
とはいえ、これを実践するのは、非常に難しい。というのは、Pを上げるほうが成果が見えやすいし、評価されやすいからだ。たとえば、自分の会社で考えてみてみよう。
出世しているのは、PCよりもPに力を入れている人で、短期的にであれ、社内で目立つ業績を上げている人ではないだろうか。
会社や組織では、目に見えにくいPCに力を入れても、数字にならない結果は、評価されにくいのだ。
これについて私は、「自分は本物のリーダーを目指す」という考えをしていた。つまり、私は自分がなりたいリーダーの定義を組織のトップに立つことではなく、メンバーに尊敬、慕われて、チームを引っ張っていける人、としたのだ。
そうすすると、別に上にならなくてもがっかりしない。なぜなら、自分のパラダイムは、地位が高くなりたいとか、お金を稼ぎたいということとは、まったく別次元にあるからだ。
 
PC(成果を生み出す能力)を高めることによって、より大きなP(成果)を生み出した例として、クロネコヤマトの宅急便がある。
かつてヤマト運輸は、倒産の危機に瀕していた時期があった。元々ヤマト運輸は近距離輸送を得意としていたのだが、トラックの長距離輸送化の波についていけずに競合他社の後塵を拝するようになってしまった。窮余の策として打ち出したのが事業の多角化だったのだが、これもうまくいかずますます経営が悪化してしまった。
そんなときに社長に就任したのが小倉昌男さんだった。小倉さんはこれまで誰も考えもしなかった少量小口の個人宅配事業を思いつき、同社の事業をこれに一本化する。
世の中の大きな流れや、人々のニーズを見たときに、「きっと消費者は小口の荷物を運んでくれる運送会社を求めているに違いない。だったらうちがそれをやろう」と考えたのだ。
宅配便事業は、家庭の荷物を集配するための拠点づくりや、拠点と拠点を結ぶ輸送システムの構築などが必要となるため、莫大な初期投資が必要となる。仮に事業が成功したとしても、初期投資を回収して利益を出すまでには、何年もかかることが予想された。
つまり小倉さんは、手っ取り早くP(成果)を出すこととはおおよそ正反対のことをやろうとしたわけだ。そして赤字の中で何とか踏みとどまり続けながら、PC(成果を生み出すための仕組みづくり)に注力したことによって、やがてとてつもないPを生み出すことができたのだ。クロネコヤマトが確立した宅配便事業は、海外にも例がない独自のビジネスモデルだった。
話を「7つの習慣」に戻すと、「7つの習慣」では依存から自立、相互依存へと成長を図ることによって、より大きな成功を手に入れることを目指す。
しかし人は一朝一夕に依存の段階から相互依存の段階に達することはできない。
そもそもコヴィー氏自身が「自立した状態が依存よりもはるかに成熟していることは言うまでもない。自立だけでも大きな成功なのである」(『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』P53)と語っているぐらいだから、相互依存の段階に達するためにはさらに日々の積み重ねが大切になってくる。
そのためすぐに成果を出したい人にとっては、この習慣はまどろっしく感じられるかもしれない。しかしそんなときこそ、PCなくしてはPはないとことを思い起こしたいものだ。「急がば回れ」ということである。

■勉強することが自己目的化してしまってはいけない

 ただしコヴィー氏は、PCを高める努力を続けながらも、一方でPを生み出すことも常に意識しておく必要があるという。

「逆にPCに力を入れすぎするのは、寿命が一〇年延びるからといって毎日三〜四時間もジョギングするようなもので、延びた寿命の一〇年間をジョギングに費やす計算になることには気づいていない。あるいは延々と大学に通うような人もいる。仕事はせず、他の人たちの黄金の卵で生活する永遠の学生シンドロームである」(『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』P66)
確かに私たちの周りにも、毎月何冊も本を読んだり、社会人大学院に通ったりというふうに、勉強熱心ではあるのだけれども、それが仕事にほとんど活かされていない人がいる。こういう人は、勉強すること自体が自己目的化してしまっているのかもしれない。
しかし私たちは何のためにPCを高めるのかというと、Pを出すためだ。何のために「7つの習慣」を実践するのかというと、より大きな成功や幸福を得るためだ。
だからコヴィー氏が言うように「P/PCバランス」、すなわちPとPCのバランスが大事なのである。Pを意識しながらPCに励もうとすることが、「7つの習慣」に取り組むことをより有意義なものにする。

序章 『7つの習慣』を実践するポイント

●スキル、テクニックだけでは人は動かせない
●人格という土台を磨いてこそ、永続的な成功につながる
●人として大切なことは理解できても、実践できている人は少ない
●独りよがりのパラダイムと決別すれば、新しい自分に変われる
●人は、依存、自立、相互依存で成長していく
●成果(P)と成果を生み出す能力(PC)をともに大切にする



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