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管理職の心構え
 
(その7)仕事は「趣味」を持って取り組め

2022.10.3

「趣味」とは、物事に理想や思いを付け加えていくこと
自分の務めを果たす時は、単に務めるだけでなく、「趣味」を持って取り組みなさい。
渋沢は『論語と算盤』の中で、こんなことを述べています。一体これはどういう意味なのでしょうか。
一般的に、仕事と趣味は真逆のものです。
仕事はお金を稼ぐために真剣にやるもの。趣味は余暇を楽しむために遊びとしてするもの。この相反する二つを一緒に実行するのは、一見不可能に思えますよね。
渋沢のいう「趣味」とは単なる遊びではありません。目の前の物事に対して、理想や思いを付け加えて実行していく。それが「趣味を持って取り組むこと」だと渋沢は言うのです。
「趣味」を持って取り組めば、「ここはこうしたい」「もっとあれをやってみたい」など、自分からやる気を持って仕事に向き合うようになる。お決まりの型通りでない、心のこもった仕事になる。そうすれば、必ず仕事のレベルは上がる。それに見合った成果がもたらされるものです。
『論語』の中にも「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かずという言葉があります。
仕事をよく理解している人より、仕事を好きな人より、仕事を楽しんでいる人が伸びる。つまり、仕事は愉快に「趣味」を持って、熱い真心を注ぐように務めることが大事だと、渋沢は考えたわけです。

日本の繁栄の土台を築いた、渋沢の驚くべき「好奇心」
 「趣味」を持って仕事に取り組むには、好奇心を持つことが不可欠です。
前にもお話ししましたが、渋沢は主君である慶喜が将軍に就いたことで、倒幕の夢を諦めることになりました。
雲の上の人となった慶喜にもはや会うこともできず、無為の日々を強いられることになった渋沢は、「亡国の民になるくらいなら浪人になろう」と幕府を辞める覚悟まで決めていました。
そんな渋沢に、救いの手が差し伸べられます。幕府から、慶喜の弟・武昭のお供としてフランスへ行くよう命じられたのです。
この場面で渋沢は持ち前の好奇心をバクハツさせます。
まず、船の中で出された洋食を躊躇することなく試します。また、「外国に行くと決めたからには」と船の中でフランス語の勉強も始めます。
この他にも、新聞を見ては「世間の小さなことから国家の重要問題まで知れて重宝する」と感動し、病院を見ては「病人は病院で療養し天寿を全うできる。これこそ人命を重んじる道だ」と感動し、オペラを鑑賞しては「舞台の背景や明暗を自在に、瞬時に作り出し、真に迫っている」と感動し、さらにはフランスの役人にせがんで暗くて臭い下水道の様子まで見て回り、それらの様子を克明に記録していきます。
渋沢が最も心を鷲掴みされたのは、ヨーロッパ各地で見た経済の仕組みでした。
その一つが銀行です。
「銀行や会社は多くの人からお金を預かり、それによって大きな仕事ができる。しかも、会社が利益を上げると預けていたお金が増えて戻ってくる」ということに気が付きます。
渋沢はこの時の体験をもとに、日本にも銀行を作ろうと思い立ったわけです。
それともう一つ、渋沢は驚くべき発見をします。それは、ヨーロッパでは役人と商人が対等であり、国王でさえ商工業を重んじ、自らの国の製品を積極的にアピールしているという事実でした。
「武士が金のことを言うのは卑しい」「商人は役人に唯々諾々と従うのが当たり前」と教育されてきた日本人・渋沢にとって、これは天地がひっくり返るくらいの衝撃だったに違いありません。
銀行と、官尊民卑のない自由な風習。これからの日本社会のためにも、これだけは何としてでも日本に持ち帰りたい。渋沢の持ち前の好奇心は、日本を豊かにしたいという大志と結びつき、日本経済を発展させる原動力へと昇華していったのです。




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