(その2)商売は「道徳」を根底に置け
2021.12.31
道徳に基づかない経済は長続きしない
渋沢が生きた当時は士農工商の時代です。士農工商が廃止された明治以降も、「政治をやる武士が一番偉く、売り買いで生計を立てる商人は一番卑しい」とする風潮が色濃く残されました。
商人は金儲けのためなら何でもする。悪どいこともするし平気で嘘もつく。だから商人は卑しい、商売は人の道にもとる最低の仕事である。それが当時の日本人の一般的な考え方だったわけです。
ところが、こうした考えに渋沢は一石を投じます。
商売は本来卑しいものではない。経済活動によって利益を上げることは、社会に豊かさをもたらすことにほかならないからである。
とはいえ、「自分の利益さえ上がれば人はどうでもいい」「利益を得るためなら何をしたって構わない」では、いずれ世の中は衰えてしまう。社会のためになる道徳に基づかなければ、経済活動は長続きしない。
したがって商売を行う人間は、商人の才覚だけでなく、世のため人のためという高い志=武士の精神(武士道)を併せ持たなければならない。
渋沢はこれを「士魂商才」と呼び、「商売は利益を得ることと道徳を守ること、両者をバランスよく持たなければいけない」と説きました。
「商売は金儲けがすべて」という時代にありながら、渋沢は真逆とも言える「世のため人のため」という道徳を持ち込むことによって、日本の経済活動のあり方を変えていこうとしたのです。
道徳を守ることは利益につながる
渋沢のこの言葉は、一見当たり前に聞こえるかもしれません。あるいは、何か綺麗事のようにも思う人もいるかもしれません。
「そんなこと言ったって、世の中食うか食われるかじゃないか」と言いたくなる人も少なくないでしょう。事実儲けばかりを追いかけて、道徳をないがしろにしている職場も数え切れないほどあると思います。
しかし仕事をする上で「道徳に基づくこと」は大変重要です。むしろこれを実践することが、利益につながることもあるからです。
かつて私が東レという会社で営業課長をしていた時のことです。
私の担当する課は漁業で使う漁網の原料を製造し販売していましたが、ある時誤って、工場が指定された強度に満たない原料を出荷してしまったことがありました。しかもミスに気づいたのは、顧客がその原料で製品を作ったあとでした。
このことを知った私はすぐに顧客の現場に飛び、謝罪するとともに原料の代替品を納めると同時に、出来上がってしまった製品を時価で買い上げました。
すると、先方の社長さんはこちらを責めるどころか、大変評価してくれ「たいていの担当者はこういう場合ミスをごまかそうとしたりするものだ。ところがあなたは素早くミスを認め、精一杯の誠意を見せてくれた。これを機に東レさんとの取引を増やしたい」と言ったのです。「相手のために商いをする」という道徳を最優先にしたことが、会社の利益も上がることになったのです。
達成すべき予算を抱えていれば、どうしても目先の利益だけを追うようになりがちです。
だからこそ常に「道徳」を心に置き道徳に基づいて行動することがビジネスにおける成功につながると思うのです。
お客様のために、そして共に働く仲間のために何ができるかを考え行動することが本物のビジネスマンになれる道です。
渋沢の説く「士魂商才」の実践は、現在の我々ビジネスマンにとって何より重要であると言えるのではないでしょうか。
道徳に沿った行動をとるとお客さまが喜び、業績が伸びると会社も共に働く仲間も喜びます。付加価値を得られた取引先も喜びます。さらに良い商品を提供できれば、お客さまがさらに喜ぶことにもつながります。
こうしてみんなが喜んで幸せになれば、当然私自身も喜びます。業績を上げた喜びの何倍もの幸せが得られる。
すべては「道徳」に基づいてこその恩恵です。
つまり、道徳というのは守らなければならない厳しいものではなく、自分自身に幸せをもたらすエンジンと言えるわけです。
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