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2008年7月アーカイブ

今こそサービス産業にイノベーションを

顧客視点重視で急成長する美容室
一昨年、私は横浜市の綱島というところに転居した。この街は美容室と歯医者がやたら多いと地元の人は言う。引越し早々、駅前でビラを配っていた若い女性に男性用カットもあるという美容室に誘われたので、その店を覗いてみたが一度で気に入って、以来ずっとその店に通っている。
店長の話によると供給過剰の美容室業界でそのチェーン店は全国に120店あり毎月2店づつ増え続け、今や150店、昨年はロンドンに出店し今年はニューヨークの予定という急成長ぶりである。
この会社のポリシーは「贅沢な遊び空間の提供」ということでお客を満足させる配慮が随所になされている。
男性用カットの料金システムは担当する人のレベルによってアートディレクター、サロンディレクター、スタイリストなど5段階に分かれていて、最高が6,900円、最低が2,500円であり自分の好みに応じて選べる。また、隣の人が見えにくくかつ開放的な仕切りの仕方、友人・恋人と一緒にヘアケアできるプライベートルーム、DVDやテレビが見れるプレミアセレブブース、さらに子供連れのお客のためにベビールームやチャイルドルームがあり、そこには玩具やアニメのDVD、オムツ替えシートなどが備えられている。
いわば顧客視点からの工夫というかイノベーションがその会社の急成長の原動力となっている。

サービス産業の生産性向上は喫緊の課題
日本の製造業の生産性に比較し、サービス産業の生産性は著しく劣位にある。
最近の数年間での製造業の生産性向上は年4.1%に対しサービス産業は0.8%に過ぎない。
しかしながら、サービス産業は今や日本のGDPの70%を占めており、その生産性が1%高まることは経済全体に対し、製造業1%上昇の3倍以上のインパクトを持つ。
日本では伝統的に「ものづくり」が重視されてきたし、グローバル競争の中に置かれた製造業は労働生産性の向上に傾注し、国際競争力を高め日本経済を支えてきた。

それに比べるとサービス産業は国際的な競争にさらされていない業種が多いこと、市場が特定地域に限られること、消費者に品質の情報が行き渡りにくいなどといった、サービス産業の特性がその生産性向上を難しくしてきたようである。
経済界全体としてもサービス産業の生産性向上については、製造業に比べやや軽視してきた感がある。
しかし、製造業のGDPに対するシェアは既に20%にまで下がっており、今や日本経済全体の成長率の水準はサービス産業にかかっている、と言っても過言ではない

いかにしてサービス産業の生産性向上を目指すか
サービス産業の生産性向上といったとき、もちろん労働生産性に代表される効率の向上もあるが、付加価値向上、新規ビジネス創出という側面があることも見逃せない。くだんの美容室は特に顧客の満足度向上という品質の向上を通じ売上利益を享受していると言える。
冠婚葬祭事業は最近伸びているが、ある葬儀会社は生前に本人自らの葬儀を希望に応じ予約するというビジネスモデルを採用し、急成長しているとのことであった。
最近は家族が亡くなると、インターネットで検索し、価格も含め自分の希望に合った葬儀屋を選ぶ時代になっているが、葬儀の事前予約という発想は驚きであり、まさに新規ビジネスの創出である。

伝統的大企業が従来慣行を変えられない中、新たに参入した若い企業がサービスイノベーションで成功する事例が多く見られるようになってきている。
このように、これからのサービス産業はIT力や経営力で伸びる企業と、それができずに市場から姿を消していく企業とに分かれていくだろう。
また、サービス産業での生産性向上については、製造業で培った製造管理ノウハウが大いに役立つ局面がある。それに最近製造業のサービス化が進展していること、サービス産業の中の例えば事業所サービス、運輸などの業種は製造業の競争力に繋がる面もあり、お互いの強化に資するところ大である。

サービス産業の競争力強化のためには、ITの活用や経営力強化のほか、産学官の連携、科学的研究の強化、人材の育成など成すべき課題は多いが、今まで製造業に比べればその認識が少なかった分、改善の余地も大きいのではないか。というよりサービス産業の中で勝ち抜いていくためには今こそ死に物狂いで知恵を出しイノベーション(創造と革新)を起こさねばならない。
頑張れ!サービス産業!!


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経産省山田課長補佐ただいま育休中

08年4月、新生銀行で開催された「新生・ダイバーシティシンポジウム」にパネリストの1人として出席した。(モデレーターは、NPO法人JKSKの木全ミツ理事長)
新生銀行は、行員2,350人のうち約100人が外国人、また、女性の管理職も多くダイバーシティを企業戦略に掲げている先進的企業である。
その日も冒頭、ティエリー・ ポルテ社長から「ダイバーシティをわが社の経営課題の最重要テーマのひとつとして推進していく」というスピーチがあった。

1年間育休をとった山田課長補佐
さて、パネリストはというと、カリスマコンサルタントと言われる神田昌典さん、経済産業省の山田正人さんと私の3人であった。この経産省の山田さんは最初の子どもが双子で、そのときは経産省同期入省の奥さんが育休をとり、3人目のときには自分が育休をとったというキャリア官僚である。
育休をとるまでの周囲の冷たい(?)反応、子どもを育てる苦労と楽しさ、育休中の新たな発見、そして役所仕事の大きな無駄の再認識など、ユーモアを交えてのプレゼンテーションに会場は何度も大きな笑いに包まれた。
特に役所では、「山田は子どもを生んでないのに産休をとるのか」「山田は出世をあきらめたのか」、保育園では、「お父さんは時間休をとられているのですか」「リストラされたのですか」というたぐいの対応をされたとの話は、この国の現実のレベルを物語っている。

育休後の人事評価は上げるべきでは
私自身の子どもは3人ともすべて年子だったせいもあり、育児の大変さは身に沁みている。あの当時は専業主婦といえども妻1人での育児は不可能で、私は相当程度サポートせざるを得なかった。
子どもというのは極めて理不尽な存在で、いつ何時、何をするか分からない。その辺にあるものを口に入れたり、這い回りながら段差のあるところで落ちたりして、片時も目を離せない。
昼寝をしていても何時起き出すか分からないので、ちょっとした外出も気を付けなくてはならない。
そういった意味では、育児というのは「リスク管理」と「時間管理」の高度なスキルを必要とし、1年間子どもの世話をすると、それらの能力が驚くほど磨かれることになる。
したがって、私は育休をとった人が職場に復帰したら、その人の評価を上げてはどうかと考えている。ところが世の中は良くて評価横ばい、下手をすると育休の間は会社への貢献がないのだから下げるという会社もある。
私が若いころ、職場の上司からよく「結婚して一人前、子どもができて一人前」と言われたことがある。それは必ずしも正しいとは言えないが、それでも子どもを持って親としての自覚や責任を体得したり、他人を理解できるといった側面があることも否定できない。

山田さんの職場感「なんでダラダラ働いているのか」
さて、山田さんは1年間育休をとって職場に復帰し、今でも水曜日、金曜日は定時退社している(月、火、木は奥さんの当番)。そこで見た役所の仕事のやり方への感想が面白い。「残業を当然の前提にした仕事の進め方と密度」「家庭責任を負わない者につかまる不快感」「チームワークがもたらすアンチ・ワーク・バランス」、要は一言で言うと「なんでダラダラ働いているのか」という感想と怒りである。
私が彼の上司なら、育休のときの得がたい経験と周囲の抵抗の中で自分の行き方を貫徹した勇気を大いに評価し、責任あるポストに付けたいと考えるのだが。
(注)山田正人氏には「経産省の山田課長補佐、ただいま育休中」(日経新聞社)という著書がある。


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リーダーシップにセオリーはない

最近、私は官庁の課長クラスの勉強会で「行政(官庁)の人のリーダーシップ」について話をして欲しいと頼まれました。彼らが何ヶ月もリーダーシップ論を勉強してきたと聞いて、やや揶揄して題は『リーダーシップってなんのこと』として次のような話をしました。

リーダーシップに一般論はない
それまでの勉強会で元事務次官や局長などから聴いたことを議事録で読みましたが「リーダーは先見性、洞察力、実行力が必要」「リーダーはビジョンを持て」「常に明るく」「部下を褒めろ」「改革力が重要」などのような内容でした。
では一体どうしたら先見性や改革力を持てるようになるのでしょう。そのような能力は持って生まれた資質と幼児期の教育によるものが大きくリーダーシップ論をいくら深堀りしても身に付くわけではないと思われます。
それに人の個性はさまざまで、性格の暗い人もいれば部下をうまく褒められない人もいる。両面を持つ楽天の野村監督などその最たる例ですが、だからといって彼にリーダーシップがないとは言えません。人はそう簡単に自分を変えられないもので、その人の持っている性格・人間性・能力に応じて行動するしかないと思います。
そういう意味ではリーダーシップに一般論はないとも言えます。
 
もう一つ、最近慶応大学の竹中平蔵教授の『構造改革の真実』という本の中に各官庁のトップがとったいくつかの行動が紹介されています。例えば、郵政民営化で小泉改革に抵抗した総務省幹部2人が更迭された事件、道路公団民営化で事務局の立場を利用して骨抜き工作をした国土交通省幹部、さらに財務省が自分たちの路線に与しない税制調査会の本間会長を官舎愛人同居というスキャンダルで引きずり下ろしたというエピソードなど。
このような例を見ていると、行政(官僚)の方にはあまりリーダーシップを発揮してもらわない方が良いとも言えます。つまり志の無いリーダーシップは傍迷惑だということです。
 
リーダーシップは自ら学んで掴み取るもの
私は彼らが抽象的、建前的リーダーシップ論に多くの時間を費やしているのでやや皮肉っぽく話したまでで、本当に考えていることとは少し違います。
私は会社生活の中で、若いころはそれほど目立たなかったが40代、50代になってからリーダーとして力を発揮する人を何人も見てきました。
どうしてそうなるのでしょうか。それは仕事に対する取り組み姿勢や人を理解しようという努力の積み重ねがその人をリーダーに育て上げていくからだと思います。
私は以前新聞のコラムに「仕事はもっと脳細胞を使って」ということを書いたことがあります。仕事を効率的に遂行するため、徹底的に頭を使ってビジネスマンとしてプロにならねばならない、つまり仕事力は能力ではなく努力であるといいました。
私はリーダーシップも同じではないかと考えています。
多くの人は組織の中で課長なり部長という責任ある立場になったとき、どのように行動したら組織として成果が上げられるのかを真剣に考え始めます。
例えば中長期的に結果を残すためには、ビジョンや目標設定をしなくてはならない、部下の能力を引き出すためには、褒めることも必要だが、時には厳しく叱責することもしなくてはならない、そういう姿を部下や周囲の人たちが評価する中でその人のリーダーシップが確立されていくのではないでしょうか。
リーダーシップは自ら学んで掴み取っていくものです。


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7人に一人がうつ病に

7人に1人がうつ病にかかる
私が「ビッグツリー」を出したあとに、私のところに寄せられた、メールや手紙の中には本人やその人の家族の病気のことを書いてくれたものがありますが、そのなかで最も多かったのはうつ病でした。
WHO(世界保健機関)の報告によれば世界の人口の3~5%がうつ病にかかるといいます。
これを日本の人口に当てはめると360万人から600万人ということになります。
しかし、それほどありふれた病気なのに正しく診断され適切な治療を受けている人は3人に1人といわれています。米国精神医学会のデータによると7人に1人は一生に一度うつ病にかかるとし、性別では女性が男性の2倍近く存在し、初発年齢は10代から20代にかけてが最も多いといいます。
最近うつ病が急増しているといいますが、最大の原因は社会環境の変化によるストレスの増大です。
パソコンなどの発達による高度情報化、核家族化、女性の社会進出、企業の人員削減、コミュニケーション能力の低下などによって様々なストレスが私たちの生活を脅かし、多くの人を苦しめています。

うつ病は心のカゼひき
今やうつ病は一般的でありふれた病気であり、初期の段階で「適切な」手を打てばかなりの人が回復します。治療法も格段に進歩しており、投薬によって短期間で治るケースもあります。
そして重要なことは病気であることを家族ともども自覚すること、できるだけ早く休息生活に入ること、などが求められます。
私も一時期会社中心の行動をとったがため、妻のうつ病の長期化を招いたと思っています。
もし初期の段階で適切な対応をしていたら、もっと早く妻の病気を治せたのではないかと悔やむ気持ちがあります。
これまでの私の職場でも過去8人のうつ病の部下、同僚を持った経験がありますが、私は「体が風邪をひくように、心も風邪を引くのだから気にすることはない」と言って、そのうちの6人に専門医に診てもらうよう勧めました。弊社ではかなり以前から心の相談日を設け、専門医が社員の悩みを聞き適切な対応しようという体制が整っていますが、そういうところにはなかなか本人は自分で足を運びたがりませんし、職場の上司もどうアシストしたらよいのかわからないケースが多いようです。男性の2倍はいるという女性のうつ病は家庭での対応が多いだけに更に難しいことです。
心の相談日を持ったり専門医に診てもらうといったハード面のサポートだけではなく、その人にどのように接するかなどソフト面の理解、教育が強く求められます。
職場も家庭もこの「心の風邪」を「心の肺炎」にする前に、早期に対処する努力が求められるとしみじみ思います。


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ワークライフバランス

私はWAVE出版から「ビッグツリー-私は仕事も家族も決してあきらめない」という本を出しましたが、それは次のような書き出しで始まります。
「神様は私に試練を与えたというか、ちょっといたずらをされたようだ。私の長男は自閉症という障害を持って生まれ小さい頃から手がかかり、私は幾度となく学校へ行かなければならなかった。また私の妻は肝硬変のため何度も入院を余儀なくされ、そのため妻としての役目を果たしていないという自分への責めや障害の長男のことなどが原因で、うつ病を併発してしまい入院は40回を超え3度の自殺未遂まで引き起こしてしまった。
一方、会社では、まるで私の力を試すかのように転勤が繰り返され、東京と大阪を6度も異動したものである」
 
重荷を背負った人は意外に多い
私が本を出版したあと何と多くの人たちが「実は私の家族も」と自らの苦境を話してくれたことでしょう。
それは私が自分の家族の障害や病気の話をオープンにし、それがどうしたという態度だからかもしれません。
皆、職場には隠しているが家庭に問題を抱えている人は意外に多いようです。
日本には自閉症が100万人、うつ病が500万人いるといわれており、身体障害者は350万人、ダウン症は10万人、それにアルコール依存症240万人、不登校引きこもり120万人、シングルマザー50万人、認知症200万人などを加えると何と多くの社会的弱者がいることでしょう。
その家族はそれぞれ日々戦いの生活を送っています。また子育てをしながら限られた時間の中で懸命に仕事をしている女性も多い、にもかかわらず、日本の社会は健常者とか健全な家庭を持つ男性を前提として運営されていないでしょうか。

仕事はもっと戦略的に
自分の家族の為だけではなく誰もが会社以外の私生活を充実させることを求めています。
それを妨げている最大の要因のひとつが長時間労働と非効率労働であり日本の多くの会社に見られる悪弊です。仕事の成果と長時間労働とは必ずしも比例しません。仕事に取り組むときにはもっと戦略的にプランニングし、脳細胞をフルに使ってより効率的に遂行しなくてはなりません。
最初に妻が3年ほど入院したとき、子供たちは中学2年、小学6年、5年でした。ウィークデーは毎朝5時半に起き3人分の子供の朝食と弁当を作り、人より1時間早く会社に出社し、子供たちの夕食のため、夕方6時に会社を出る。休日は一週間分の洗濯、掃除、買い物をし、病院への見舞いをする。会社では会議は半減、資料はシンプルで事前配布、不要な業務の切り捨てなど極限までの業務の効率化に挑戦したわけですが、頭を使えば一般の会社の仕事程度は半分くらいの時間でできるのではないかと思います。
仕事にどっぷり浸かって、寝ても覚めても仕事のことを考えないと本物にはならないという人もいます。それはある面では正しいですが、上司の指示の不適切さ、己の要領の悪さなどで、相当無駄な時間が費やされていることがしばしばあることを忘れてはならないと思います。 


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セーラが町にやってきた

ウーマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたセーラ
少し古い話ですが、月刊誌「日経ウーマン」が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2002年大賞」にセーラ・マリ・カミングスさんが選ばれました。先般そのセーラさんにインタビューをしてきましたが近年、お会いした人の中で最も感動し・感銘を受けた方の一人でした。
彼女の特質は「戦略あっても計算なし」「悩む前にまず行動」という二つに言い尽くされそうです。そのひたむきさと行動力はあきれるほどで、大袈裟に言うならば私たちの数倍生き抜く力が大きいのではないかと感じるほどでした。

交渉力とは粘り強さのこと
長野駅から電車で北へ30分ほどのところにある小布施町にセーラさんが来たのは今から10年前。17代続いた老舗の「枡一市村酒造場」という会社で仕事を始めたセーラさんは「ここに自分の居場所がある」と感じ、町起こしのため、次々に大仕事をやり抜いてきました。小布施町ゆかりの葛飾北斎を町起こしのシンボルにしようと、従来ヴェニスで開催されていた国際北斎会議(北斎は日本より欧州での評価が高い)を小布施に招致することを、持ち前の実行力で実現させたのが皮切りでした。
長野冬季オリンピックではアン王女と英国選手団のいわば民間特命大使役を担い、選手団へのおみやげとして五輪カラーの蛇の目傘150本を3カ月以内に作ろうと思い立ち、30社に断られながらも粘り腰で交渉し、ついに京都の内藤商店を口説き落としました。
酒蔵を改造した和食レストランの設計には著名なアメリカ人デザイナーであるジョン・モーフォードに香港まで出掛けて頼みこみ、17代続いた造り酒屋にふさわしい和食レストランを作りあげました。そのレストラン「蔵部(くらぶ)」は町の店が通常5時で閉店するという常識を破って10時まで営業し、多くのお客を呼び寄せることに成功しました。
また、酒造りでは欧米人としては初めて「利酒師」の資格を取り、一般のお酒とは差別化された新酒「スクエアワン」を開発しました。
一方、町の人達はコミュニケーションの場を求めているし、必要だと考え、毎月一回「小布施ッション」を開催し、著名人を講師に呼ぶなど、知的で遊び心に満ちたイベントの立ち上げにも成功しました。
人口1万2千人の町に、昨年は120万人の観光客が訪れたといいます。
「私に何か能力があるとすれば、それは粘り強さです。交渉力とは粘り勝ちする能力のことです」とセーラさんは言っています。

セーラが見つけた日本、日本が見つけたセーラ
彼女の持論は「日本の地方には本当に古き良きところがたくさんあって、それを引き出し、地方の活性化につなげなくてはならない」というものであり、小布施はその成功例といえます。つまりセーラさんが日本を見つけ出したわけです。
ただ彼女のひたむきさや行動力をその周囲の人達が理解し、ひとつひとつ夢を実現していったことが成功の背景にあります。そういう意味では日本がセーラさんを見つけたわけです。
インタビュ-を終えて小布施の町を散策し、北斎ゆかりのお寺や住居を見、改めてセーラさんの成果の大きさを感じました。
セーラさんはインタビューを受ける前に東レという会社、繊維のことを勉強していたに違いありません。インタビューの中でありありとその事実がわかります。セーラさんはただやみくもに行動をしているわけではなく、相手を思いやる気持ち、気配り、そして人を楽しくさせる会話や行動に心がけています。

人を活かすのは周りの人と環境
セーラさんがアメリカのペンシルバニアにいたとしたら、これほど活躍したでしょうか。もちろん、生来の明るさと行動力で何がしかの結果は残したでしょうが小布施ほどではないでしょう。
これは、1人の人間に特長があってもその人を活かし何かを実現させるのは、その周りにいる人達であり周りの環境ともいえるのではないでしょうか。私たちが会社の中、社会の中で一人一人の良さを認め、その人を真に活かすようにしなくてはならないと、少し大袈裟な話になりましたがそんなことを感じさせられた一日でした。


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35歳で勝負は決まり

35歳で勝負は決まり
私は30代後半に課長になったとき仕事の進め方について課員にいくつかのメッセージを伝えましたが、その最初のセンテンスは「3年で物事が見えてくる、30歳にして立つ、35歳で勝負は決まり」というものでした。
これは会社に入って3年もたてば、会社の仕事、仕組みなどが理解でき、30歳になれば完全に一人前の仕事ができる。そして35歳になればビジネスマンとしての能力、評価は確定するということを言ったつもりです。
つまり35歳になれば相当な責任ある立場に立てるということでもあります。
ところが多くの大企業は、35歳では部長にも取締役にもしてくれません。優秀な人材はそれから何年も待たねばなりません。
待ちきれず会社を飛び出す人もいますが多くの人は我慢しながら当座の役割期待をこなしていきます。
それでは思い切った若手抜擢がいいのかというとこれが意外に難しい。仕事はできるがリーダーとしての人間性や胆力が欠如していたりするし、抜擢した若い人の部下にそこそこ優秀な先輩がいるとチームとしてのパワーアップにつながらなかったりします。
多くの企業はそういうリスクを避けるため、基本的には年功序列プラス能力主義を採用することになるわけです。

若い人にはポストでいい仕事を
会社が危機的状況を迎えたり、重要な事業改革が求められたりした時、その時誰がリーダーになって実行するかそのリーダーによる結果の差は大きい。ですが、そういう人を誰がどのように見分けるのでしょう?
課長や部長のときは平凡だと思われていた人がトップになって意外に大きな能力を発揮する場合がありますし、またその逆の場合もあります。担当の事業業績を上げた人を選ぶと言ってもそういった結果が実はその人の力によるものでなかったりします。会社は人事については当たり外れの連続を宿命的に負っています。
一方、組織全体としては、取締役が少々お粗末でも優れた社長がいれば、会社はなんとか運営されていきますし、部門長が若干力量不足でも部長がしっかりしていれば、立派に代行していきます。なんといっても会社の仕事はチームワークの積み重ねを大事にしており人材ロスをミニマイズしようとしています。
能力といえば、昔、不祥事を起こした大手商社の社長が「愚直なまでにまじめに仕事を遂行すること、正直が第一」と社員に訴えたことがありますが、愚直さや謙虚さは能力のひとつともいえます。 いずれにしても人の能力は多面的である上に、評価する人の価値観、立場によってその評価は大いに異なることになります。
いろいろありますが、それでも若さは貴重であり若くアグレッシブな時に活躍の場を求めるのは青年の特権です。
大事なことは若い人を早く偉くさせることではなくその優れた能力を発揮させうる仕事を与えることであり、働き甲斐、生きがいを感じさせる人事と風土ではないかと思います。


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プアなイノベーションより優れたイミテーション

先人の知恵を活用しよう
以前、私はトップから繊維の国際会議(それは第3回目の会議であった)の冒頭の基調講演の原稿を書くように指示され、自分なりにいろいろ考えそれなりの文章を書いてみたもののなかなかトップは満足してくれなかったことがあります。
そこでもう一度、第1回目と第2回目の基調講演を熟読してみました。すると第1回目のそれは繊維産業全体のためにアジア各国の首脳に参加してもらおうという熱いパッションと意義付けや哲学が明確に詠われており、極めて格調の高いもので、多くの人の心を捉える見事なスピーチ内容でした。それはそのはずで第1回目でもあったためその内容は練りに練った原稿だったからです。
そこで私はその優れた文章のかなりの部分をいただき原稿を完成させトップに提出したところ「これはよくできている。これでいこう」と即座にOKが出ました。
もう一つ、かつて、私が30代の前半のこと、繊維事業のスタッフに転勤してきたとき、私が最初に取り掛かったのは、書庫の整理でした。書庫には昭和20年代からの重要な資料が保管されていました。
作業服に着替え、2週間ほど毎日書庫の書類の整理に没頭し、すべての書類を読み、そのうち半分ほどの不要なものは捨て、残すべきものはカテゴリー別に分類し、重要度ランクをつけ、最後にファイルリストを作りました。
即ち先輩の遺産の棚卸をしたわけです。
書庫の整理が終わったあと、上司から何らかの仕事の指示を受けても、まずファイルのリストをみて、似たようなテーマをどう分析し結論付けているかを調査しました。会社の仕事は大体似たようなことの繰り返しなのでたいていはそのファイルリストにあるわけです。そしてそのテーマについて現時点のデータや環境に置き換えればあまり時間をかけずに完成できるということになります。
昔の先輩が知恵を出して作った作品に自分のアイディアを乗せ報告するわけなので当然仕事のスピードは速く、おのずとレベルの高い成果にも繋がります。

優れたイミテーションの先にイノベーションが待っている
世の中はイノベーションの大合唱です。もちろんそうでしょう、技術も営業もイノベーションなくして企業は生き残れません。しかし残念ながら人間一人の知恵などたいしたものではないのです。
先に挙げた2つの事例のように通常の業務ならばいきなり自ら考えるより、先輩の優れた遺産を活用しながら皆で知恵を出し合ったりする方がはるかに効果的です。
また、おそらく革新的イノベーションの場合も何の蓄積もないところから突然湧いてくるものではなく、日頃の学習の積み重ねという努力によって発現するものなのでしょう。
ある意味では優れたイミテーションの積み重ねの先に優れたイノベーションが待っているのではないでしょうか。


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男の働き方を変えよう

ワークライフバランスに冷ややかな経営者
10月26日、永田町の全国町村会館で「男の働き方を変えよう」というシンポジウムに4人のパネラーのうちの1人として出席しました。男性の参加者は少ないのではないかという私の予想に反して会場一杯の参加者、それも多くの男性の姿がありました。
司会者が「この中で業務として来た人」と聞いた時、約半数の人が手を挙げました。
日本の会社でもワークライフバランス、女性の活用、両立支援に関心を持ち始めたということでしょう。
パネラーの中の1人は2005年日本の合計特殊出生率1.26という数字をあげ、男性が会社の仕事ばかりして家庭を省みないため、女性に育児負担が集中することが少子化の1つの原因になっていると力説していました。私以外の3人のパネラーのうち2人は子育てのため転職したりして家族との触れ合いの時間を自ら作り出していました。
ワークライフバランスについては行政からの提案、各企業での試行錯誤、個人の具体的な行動などさまざまな試みがされていますが、多くの企業はなかなか重い腰をあげようとしませんし賛同する男性社員も多くはいません。
何故でしょう。経営者や会社の管理者層の多くが「職場の多忙は日本企業の競争力の源泉」「寝てもさめても仕事を考えることを経て人は育つ」と考えていますし、また、「非正規社員の穴を埋めるのは正規社員」「育児支援などは企業のコストアップ」と考えているようです。本当にそうでしょうか。

経営戦略としてのワークライフバランス
なぜ今ワークライフバランスなのかといいますとひとつは長時間労働を強いられる(自らする?)人たちは肉体的にも精神的にも疲れ切っていて自分の時間も持てず満足感やロイヤリティが低下している状況にあります。このような人たちの集団が、この厳しい競争社会で勝ち抜けるとは思えないのです。
二つ目は、限られた時間の中ではどうしても計画的にまた効率的に業務遂行をせざるを得ないため生産性が向上するということがあります。
そして三つ目は働きやすい会社という評価や評判は優れた若い人たちの入社を誘いますし、社内で育った人材には帰属意識の醸成につながり定着率も高くなるという効果があります。
そういう意味でワークライフバランスというのはすぐれて重要な経営戦略といえます。
ただ私の場合は「ワークライフバランス」などという優雅なものではなく「ワークライフマネジメント」ともいうべきメリハリの求められる厳しい生活でしたが。


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