08年4月、新生銀行で開催された「新生・ダイバーシティシンポジウム」にパネリストの1人として出席した。(モデレーターは、NPO法人JKSKの木全ミツ理事長)
新生銀行は、行員2,350人のうち約100人が外国人、また、女性の管理職も多くダイバーシティを企業戦略に掲げている先進的企業である。
その日も冒頭、ティエリー・ ポルテ社長から「ダイバーシティをわが社の経営課題の最重要テーマのひとつとして推進していく」というスピーチがあった。
1年間育休をとった山田課長補佐
さて、パネリストはというと、カリスマコンサルタントと言われる神田昌典さん、経済産業省の山田正人さんと私の3人であった。この経産省の山田さんは最初の子どもが双子で、そのときは経産省同期入省の奥さんが育休をとり、3人目のときには自分が育休をとったというキャリア官僚である。
育休をとるまでの周囲の冷たい(?)反応、子どもを育てる苦労と楽しさ、育休中の新たな発見、そして役所仕事の大きな無駄の再認識など、ユーモアを交えてのプレゼンテーションに会場は何度も大きな笑いに包まれた。
特に役所では、「山田は子どもを生んでないのに産休をとるのか」「山田は出世をあきらめたのか」、保育園では、「お父さんは時間休をとられているのですか」「リストラされたのですか」というたぐいの対応をされたとの話は、この国の現実のレベルを物語っている。
育休後の人事評価は上げるべきでは
私自身の子どもは3人ともすべて年子だったせいもあり、育児の大変さは身に沁みている。あの当時は専業主婦といえども妻1人での育児は不可能で、私は相当程度サポートせざるを得なかった。
子どもというのは極めて理不尽な存在で、いつ何時、何をするか分からない。その辺にあるものを口に入れたり、這い回りながら段差のあるところで落ちたりして、片時も目を離せない。
昼寝をしていても何時起き出すか分からないので、ちょっとした外出も気を付けなくてはならない。
そういった意味では、育児というのは「リスク管理」と「時間管理」の高度なスキルを必要とし、1年間子どもの世話をすると、それらの能力が驚くほど磨かれることになる。
したがって、私は育休をとった人が職場に復帰したら、その人の評価を上げてはどうかと考えている。ところが世の中は良くて評価横ばい、下手をすると育休の間は会社への貢献がないのだから下げるという会社もある。
私が若いころ、職場の上司からよく「結婚して一人前、子どもができて一人前」と言われたことがある。それは必ずしも正しいとは言えないが、それでも子どもを持って親としての自覚や責任を体得したり、他人を理解できるといった側面があることも否定できない。
山田さんの職場感「なんでダラダラ働いているのか」
さて、山田さんは1年間育休をとって職場に復帰し、今でも水曜日、金曜日は定時退社している(月、火、木は奥さんの当番)。そこで見た役所の仕事のやり方への感想が面白い。「残業を当然の前提にした仕事の進め方と密度」「家庭責任を負わない者につかまる不快感」「チームワークがもたらすアンチ・ワーク・バランス」、要は一言で言うと「なんでダラダラ働いているのか」という感想と怒りである。
私が彼の上司なら、育休のときの得がたい経験と周囲の抵抗の中で自分の行き方を貫徹した勇気を大いに評価し、責任あるポストに付けたいと考えるのだが。
(注)山田正人氏には「経産省の山田課長補佐、ただいま育休中」(日経新聞社)という著書がある。
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