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ビジネスマンのための論語
 
ビジネスマンのための論語(18回)

2018.4.2

夫れ仁者は己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す


 仁者の持つ本当の思いやりとは、自分より先に相手を立たせ、自分より先に相手を目的地に到達させようという心配りである。これは子貢が孔子に仁のことを尋ねた時の返事である。
このことがどれほど難しいかは、自分の経験を考えればすぐわかる。例えば会社での昇進のとき、課長昇格の対象者がそのセクションに二人いたとしてポストが一つとしようか、そのとき自分は上がらなくてもいいから同僚のA君を昇格させて欲しい、というようなことを言っているからである。普通の人は自分のことで精一杯である。そもそも人のことを思いやるのも程度問題で、まず自分が独り立ちしなくてはならない。独り立ちし、実力が付き自信を持つようになって初めて他人を立たせる気持ちを持つことができる。他人を立たせる気持ちを持っている人は、かなり優れ者で他人に負けない自信を持っている人である。自分のほうが優れていると知っているからこそ、人を立て人を達せさせることができるのだろう。この章句は、優れた人の心構えとして自分より他人に手厚くしなさいという孔子一流の一般的なアドバイスであり、額面通りには受け取らないほうがいい。


子曰く、民の仁におけるや、水火よりも甚だし 水火は吾れ蹈みて死する者を見る 未だ仁を蹈みて死する者を見ざるなり


人間生活にとっての思いやりの精神は、水や火よりも必要不可欠なものだ。水や火には踏み込んで死ぬ人はいるが、仁に踏み込んで死んだ人はまだ見たことがない。

 中国には古くから「陰陽五行」説があり、宇宙は陰陽二つの形態からなり、自然は水から木が生じ、木がこすれあって火が生じ、火が物を焼き尽くして土が生じ、土の中から鉱物が生じ、そこを通った雨水が豊かな水となって再び木を生じさせる―木火土金水という循環思想が信じられていた。とりわけ水と火を治めるものは国を治めるという。火と水は人間が生活していく上で欠かせないものだが、過多になると水害や火事などの災害をもたらす。
その点、思いやりの精神は無尽蔵だから、いくらあっても人を損なったりしない。多ければ多いほどいい。 孔子が君子に求められる徳の中で最上位に置いているのは仁、すなわち思いやりである。 会社で仕事をしていく上では、部下のプライベートな事情を考慮したり、仕事で悩んだり困ったりしているときに手を差し伸べてやる気持ちが大切で、そうした思いやりがあれば部下はモチベーション高く仕事に向き合える。 以前、どこかの首相が、自分の政治信条を「友愛」と表現したことがある。私のかつての上司にも「人を思いやる気持ちで仕事をしろ」と言った人がいる。 そう言うことは簡単だが、実行することは難しい。 思いやるのはいいが「正しく」思いやらねばならない。
社会人になったばかりの右も左もわからない新入社員に対してはその人の自主性に任せるのではなく、基本動作が身に付くまでは厳しく教育しなければならない。 また逆に、レベルの高い社員にはあれこれ言うのではなく自分で考えさせ自分で実行させなくてはならない。 相手に応じた適切な対応をしないと、本当の思いやりにはならない。 論語を読んでいつも感じるのだが、孔子の言うことは一つ一つ正しいことが多いものの、それを行うには、その人のレベルに合わせたやり方が必要なのではないか。


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