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リーダーシップ: 2012年3月アーカイブ

人を動かす力

「人を動かす力」(PHPビジネス新書 渡部昇一)は歴史に名を残す指導者は日ごろ何を考え何を拠りどころとしてどうような行動をしていたのかを豊臣秀吉、乃木希典、渋沢栄一、松下幸之助などを例に解き明かしている。
その中で指導者に必要とされる「情報力」についても触れられている。
ある高級官僚に嫁いだ婦人が日米開戦のニュースを聞いた瞬間から「日本は負ける」と信じて疑わず政府の中枢部門にいたご主人と年中喧嘩をしていたという。
彼女は父親が商社マンで戦前に何年かアメリカで過ごしその豊かさを身を持って体験していた。例えばピアノは日本ではほとんど普及していなかったがアメリカではごく普通の中産家庭にもグランドピアノがありこんなに差があるのだから日本は戦争に勝てるわけがないというのが奥さんの主張であった。
東大法学部を優秀な成績で卒業し多くの知識と情報を持つご主人の方がちょっとした末端情報から事実を読み取る力のある奥さんにかなわなかったということだ。
秀吉の例では本能寺の変の報に接するや直ちに毛利軍と講和を結び10日後には山崎の合戦で光秀を破っている。
この「信長殺される」の情報を持っていたのは秀吉だけではなかった。柴田勝家や滝川一益をはじめ織田家の主だった武将には同じ情報が同じ時期に届いていた。ところがその中で「今だ」と思ってすぐ行動したのは秀吉だけだった。
同じ情報を入手しても受け手である人間の能力によってこれだけの違いがでてくる。
そういった能力は学校の勉強では身に付かないようである。
どうしたらそういった能力が学べるか。筆者は「万感を込めて世の中を見続けることで未来を見通す直観力が養われる」という。
このへんは少し難しい表現ではあるが私流に言えば「世の中を良くしたいという志を強く持ったり可能な限り自分を成長させたいという熱い思いを持ち続けている人」には自ずから備わってくる能力ではないかと思う。


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散るぞ悲しき

2006年に大宅壮一ノンフィクション賞をとった梯久美子氏の「散るぞ悲しき」を読んだのは5年前である。 
栗林忠道中将のことは知っていたがこの本を読んで改めてこの人のリーダーとしての強さと優しさに大きな感動を覚えた。
私は栗林中将をリーダーシップある典型的な人だと感じている。 
私はリーダーに求められる資質として 現実を正しくとらえる分析力と 事を成す強い行動力 そして人をひきつける人間力が必要だと考えている。 
しかし現実にはそのようなリーダーはほとんどいない。
仕事はできるが公私混同をする人、人間性は豊かだが実行力に欠けている人などでなかなか揃っている人はいないものである。 
栗林は日米戦争の中、最も多くのアメリカ兵の死傷者を出し「アメリカ軍を最も怖れさせた男」だった。 
アーリントン墓地に硫黄島で日本軍を破ったあと星条旗を立てる兵士の像があるがそれはいかに栗林の作戦がすごかったかを示している。 
それは栗林が現状分析し波打ち際作戦をせず、島中に坑道を張り巡らし一日でも米軍の本土上陸を遅らせるべく兵に玉砕をさせなかったことが大きい。 
そして司令官は身の安全のため硫黄島の後方の父島で指揮をとっても良かったのに現地に身を置き、また司令官なのに偉ぶることもなく兵士と同じ食事をし、声をかけ士気をあげた。 
極め付きは家族に宛てた優しい心のこもった41通の手紙である。日本に残された家族を思いそれでいて書き出しはいつも「私は元気です」から始まる。 
家のお勝手の隙間風や愛する末娘のことを心配したり激励したりこんなに優しい父親がいるのだろうかと父を6歳で亡くした私は腹の底から突き上げるものがあった。
このときの2万人の日本軍の兵士たちが死ぬ間際に全員が思っていたことは日本のことでもアメリカ軍のことでもない。自分の家族のことであった。
人生において何が一番大事なことか、それは極限のとき明らかになる。


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