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「起きていることはすべて正しい」は正しくない

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勝間和代さんの本が売れている。なんでも出版する本はすべて10万部を越え累積で200万部を越えたという。
彼女は19歳で公認会計士の資格を取り3つの外資系の会社を経験し今は経済評論家としてテレビに雑誌にしばしば登場し人気絶大である。
私も彼女の本を何冊か読んだが彼女の考え方生き方に共感するところが多い。しかし、違和感を覚えるところがいくつかある。
そのうちのひとつは「起きていることはすべて正しい」という彼女の主張(このタイトルの本を出している)である。
この考え方はこの世のことはまあいろいろあるが、起きていることはその人の能力や努力の結果であるから、いわば起こるべくして起きたことでそれはすべて正しいことだというのだ。
しかし本当にそうだろうか。
私は自閉症の長男と肝硬変とうつ病を患った妻のため必死で仕事と家族の両立を図ってきて、どちらもかろうじてそこそこの結果を出したが、それはたまたま幸運に恵まれていたからではないかと感じている。
私の妻は一歩間違えば死んでいた(3回目の自殺は普通なら死んでいたのだがたまたま娘が見つけて助かった)し、忙しい部署からの異動がなければ、妻のうつ病は回復しなかったかもしれない。
そうであれば私の人生は挫折の一語であって、本を出版したりテレビに出たりすることもなく「ワークライフバランスのモデルケース」などと言われることもなかっただろう。
私が経験したことはたまたま起こったことで、人生ある意味では成功も失敗も紙一重のところにあるのではないか。

よしもとばななさんは私の本を読んで「佐々木さんにとっては愛とはひたすら責任をとることであった」と自分のブログに書いていた。そういう見方もあるのかなと感心した。
人は誰でもが家族や仕事に対し責任を果たしたいと思っているし、懸命にその努力もしている。また人は自分の境遇を嘆きながらも強く生きたいとも思っている。
そして壁にぶつかりもがき、苦しみ、愛し、喜び、悲しみ、疲れていく。
私自身もそうであった。しかし、全力で頑張っても多くの場合なかなか満足するような結果に繋がらないことが多いのだ。
「私は仕事も家族も決してあきらめない」といいながら、さまざまな場面でほとんどあきらめかけたことがあったし、少し間違えば我が家は家族崩壊の道をたどっていただろう。
さまざまな人の支援や家族の助け合い、そしていろいろな偶然で図らずも私の家族はなんとか再生しつつある。

勝間さんは「起きていることはすべて正しい」という。しかし私には到底そうは思えない。
勝間さんのような特別優れた人で華麗に成功した人が一般の人に向かって、「起きていることはすべて正しい」と言うのは少し言い過ぎのような気がする。
水泳の北島康介や野球のイチローならともかく、例えば自分の会社の社長や役員になった人など、なるべくしてなった人など多くはいない。
そのことを目指しながら、しかもそこそこの能力もありそれなりの努力もしながら結果が出ない人がどれだけたくさんいることか。
それぞれの人生はもちろん努力や意欲で掴み取っていかねばならないのだろうが、多くの場合、そばにどんな人がいたか、そのとき同時になにが起こったかなどさまざまな運、不運も大きく影響していると思う。私は人生というものに自分自身以外の大きな力を感じている。

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