先人の知恵を活用しよう 以前、私はトップから繊維の国際会議(それは第3回目の会議であった)の冒頭の基調講演の原稿を書くように指示され、自分なりにいろいろ考えそれなりの文章を書いてみたもののなかなかトップは満足してくれなかったことがあります。 そこでもう一度、第1回目と第2回目の基調講演を熟読してみました。すると第1回目のそれは繊維産業全体のためにアジア各国の首脳に参加してもらおうという熱いパッションと意義付けや哲学が明確に詠われており、極めて格調の高いもので、多くの人の心を捉える見事なスピーチ内容でした。それはそのはずで第1回目でもあったためその内容は練りに練った原稿だったからです。 そこで私はその優れた文章のかなりの部分をいただき原稿を完成させトップに提出したところ「これはよくできている。これでいこう」と即座にOKが出ました。 もう一つ、かつて、私が30代の前半のこと、繊維事業のスタッフに転勤してきたとき、私が最初に取り掛かったのは、書庫の整理でした。書庫には昭和20年代からの重要な資料が保管されていました。 作業服に着替え、2週間ほど毎日書庫の書類の整理に没頭し、すべての書類を読み、そのうち半分ほどの不要なものは捨て、残すべきものはカテゴリー別に分類し、重要度ランクをつけ、最後にファイルリストを作りました。 即ち先輩の遺産の棚卸をしたわけです。 書庫の整理が終わったあと、上司から何らかの仕事の指示を受けても、まずファイルのリストをみて、似たようなテーマをどう分析し結論付けているかを調査しました。会社の仕事は大体似たようなことの繰り返しなのでたいていはそのファイルリストにあるわけです。そしてそのテーマについて現時点のデータや環境に置き換えればあまり時間をかけずに完成できるということになります。 昔の先輩が知恵を出して作った作品に自分のアイディアを乗せ報告するわけなので当然仕事のスピードは速く、おのずとレベルの高い成果にも繋がります。
優れたイミテーションの先にイノベーションが待っている 世の中はイノベーションの大合唱です。もちろんそうでしょう、技術も営業もイノベーションなくして企業は生き残れません。しかし残念ながら人間一人の知恵などたいしたものではないのです。 先に挙げた2つの事例のように通常の業務ならばいきなり自ら考えるより、先輩の優れた遺産を活用しながら皆で知恵を出し合ったりする方がはるかに効果的です。 また、おそらく革新的イノベーションの場合も何の蓄積もないところから突然湧いてくるものではなく、日頃の学習の積み重ねという努力によって発現するものなのでしょう。 ある意味では優れたイミテーションの積み重ねの先に優れたイノベーションが待っているのではないでしょうか。