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一流のリーダーに大切な「7つの習慣」

2023.8.30

■ 真の成功や幸福を手に入れるためには
 スティーブン・R・コヴィー博士の『7つの習慣』は、世の中にあまたある書籍の中でも、間違いなく最高傑作の一つです。1989年の初版の刊行以来、販売部数は全世界で3000万部に達しており、日本でもミリオンセラーを記録しています。
 私がこの本を初めて読んだのは40代のときです。ある日、大手町で人と待ち合わせをしたときに少し時間があったので、近くの書店に立ち寄りました。ビジネス書のコーナーでたまたま『7つの習慣』を見つけ、パラパラとめくってみると、私が30代で課長になったとき部下に発信した「仕事の進め方基本10ヵ条」と同じようなことが書いてあるので驚きました。
 しかも内容は、論理的かつ体系的で非常に説得力があるもので、「自分の人生に責任を持って主体的に生きる」「最優先事項を優先する」「お互いのWin-Winを大切にする」といったコヴィー博士の考え方は、自分が考えてきたことと共通することが多く、強い共感を覚え、深く感動し、以来、私の座右の書となりました。
 コヴィー博士の考える、真の成功や幸福を手に入れるために必要な習慣は突飛なものはありません。人生における成功の原理原則が書かれている本ですから、むしろ、多くの人が当たり前にやっていることや、漠然と考えてきたことについて述べられています。
 しかし、それでも、私たちに大切な気づきを与えてくれます。過去のさまざまな成功に関する文献の調査分析や、コヴィー博士自身の経験から導かれた、成功を収めるために必要な習慣が体系的に述べられています。論理を一つひとつ積み上げながら丁寧に説明をしているので、説得力があります。
 私は『7つの習慣』は、もっとたくさんの人に読まれるべき書物であると思っています。

■ 永続的な成功を手に入れるためには
『7つの習慣』は、組織においては良いリーダーやプレーヤーとして、家庭においては良い父親や母親、夫や妻として、成功を収めるために必要となる習慣を説いた本です。
 一般的な成功本と違うのは、イメージアップ術や自己PR力といったスキルやテクニックを磨くだけでは、短期的な成功は手に入れられるかもしれないが、永続的な成功は得られないと述べていることです。
 不誠実な人、人によって態度を変えるような二面的な人でも、小手先のスキルやテクニックを使えば、一時的には相手に良い印象を与えることが可能です。初めての取引先であれば、「彼となら一緒に仕事ができそうだ」と思われて、商談が決まることがあるかもしれません。しかし長いつきあいが始めると、必ず化けの皮がはがれるときが来ます。
 ですから永続的な成功を得るためには、成功を支える土台となる人格を磨くことが不可欠となります。もちろんスキルやテクニックが不要なわけではありません。たとえば社内プレゼンの場で自分の意見を通したいのなら、まず土台となる人間性や実力を磨いたうえで、その次にプレゼン力を身につければ、誰もが自分の言葉に耳を傾けてくれるようになるということです。逆に人格を磨くことを怠ったまま、どんなにプレゼン力を磨いたとしても、周りの人からは「どうせ薄っぺらな内容を格好つけて喋っているだけだろう」と思われて終わりです。
 ちなみにコヴィー博士は、手っ取り早く成功を手に入れるためにスキルやテクニックを身につけようとする姿勢を「個性主義」と呼び、人格を磨くことで真の成功と永続的な幸福を得ることを「人格主義」と呼んでいます。
 ところで、成功というと私たちは、「会社の中で出世して社会的な地位を得る」とか「高い給料をもらって経済的に豊かになる」といったイメージを抱きがちです。けれども世の中には、お金持ちにはなったものの、すっかり家族関係が冷え切ってしまっている人もいます。こういう人は、本当の意味での人生の成功者ではありません。
 一方、人格を磨くことは、家族や友人、地域の人たちと良好な関係を築けたり、リーダーとして部下から信頼を得たり、そして社会的な成功や経済的な成功を手に入れたりといったように、すべての成功の土台となります。
 人格を磨いてきた人は、誰からも信頼を得ることができ、社会や人々に必要とされる存在、良い影響を与える存在になることができるからです。会社でも家庭でも地域でも、人生のあらゆる場面で成功の果実を実らせることができます。

■ 原則中心の生き方をするには
 人格を磨くことへの大切さについて、異議を唱える人はいないでしょう。では人格を磨くために、何をすればいいのでしょうか。
 コヴィー博士は、「古今東西、時代を超えて人間社会に共通する普遍的な原則を知ったうえで、原則中心の生き方をすることが人格を磨くことにつながる」と言います。普遍的な原則とは、公正さ、誠実、正直、人間の尊厳、奉仕や貢献、忍耐や励ましといったものです。確かに公正さを大切にする人や正直な人は、時代に関係なくどんな国や文化においても、信頼や尊敬を集めてきたはずです。
 私は、人として生きていくうえで大切な原則は、実は多くの人がすでに幼い頃に両親から教わっていると思います。それはたとえば「弱い者いじめをしてはいけません」「嘘をついてはいけません」といったことです。
 ですから人間社会の原則に沿って人格を磨くのは、子どもの頃に親から教わったことを、守ればいいだけのことです。ところがこれをきちんと実践できている社会人は、あまり多くありません。私たちは大人でも、自分よりも遅れている人を見るとバカにしたり、自分をよく見せるためについ嘘をついてしまうといったことを、本能的にやってしまうというところがあります。理性ではわかっていても本能に負けてしまうために、親から教わってしまった原則を守れなくなってしまうのです。
 理性が本能に打ち克つためには、結局のところ「より良く生きたい」という思いを強く持つ以外にないと思います。時折自分を振り返り、過ちについては反省して自分を改められるかどうかが、その人が原則中心の生き方ができるかどうかのカギを握ります。
 原則中心の生き方とは、人生の様々なシーンで原則的に忠実に選択をするということです。たとえば、実際に社会生活を送っていると、異なる価値観が対立して並び立たなくなるときがあります。
 かつて得意先との間で重要な会議があったとき、いつも時間を守り信頼していた部下が、どういうわけか遅刻してしまったことがありました。
 相手の責任者が不愉快そうな顔をしたのを見て、私は思わず「申し訳ありません。私が部下に約束の時間を間違えて伝えてしまいました」と嘘をつきました。
 嘘をつくのは、一般的には間違った行為です。けれども私は、彼の信用が落ちないために、「上司として部下を守る」という別の価値観を優先したのです。
 遅刻をしてきた部下に後で理由を聞いたところ、出がけに奥さんの具合が悪くなって病院に連れて行ったとのことでした。彼もまた「遅刻をしない」ということよりも、「家族を大切にする」ということを優先したわけです。
 このように原則中心の生き方とは、ある一つの価値観を杓子定規に守ることではありません。
「相手や世の中のために、今回はどうすればいいか」を考えながら生きることが、自分の視野を広げ思考を深め、自己を磨くことにつながっていくと思います。

■ インサイド・アウトの思考法とは
 あなたがある営業チームのリーダーを任されているとします。一緒に働いている部下はみんなモチベーションが低く、チームの営業成績も伸び悩んでいます。こんなとき多くの人は、「成績が低迷しているのは、やる気のないメンバーばかりが集まっているからだ」と、部下のせいにしてしまいがちです。
 けれどもコヴィー博士は、そうした「アウトサイド・インのパラダイムでは、私たちは幸福を得ることはできない」と言います。
 アウトサイド・インとは、「外から内へ」という意味です。物事がうまくいかない原因は、自分を取り巻く環境や他人のほうにあり、「自分が幸せになるためには、あの人に変わってもらわなくてはいけない」というように、外部に変化を要求することで自分の幸福を得ようとする思考法です。
 しかし、他人をこちらの思惑どおりに変えるのは不可能です。なぜなら他人もまた、その人なりの思惑を持って生きているからです。
 そこでコヴィー博士は、アウトサイド・インの思考を捨てて、インサイド・アウト(内から外へ)の思考法を持つことが大事だといいます。他人に変化を要求するのではなく、自分を変えることで状況を改善するのです。
 営業チームの例で言えば、部下のモチベーションが落ちているのは、自分のリーダーシップやマネジメントに問題があるのかもしれません。自分が変われば、部下のモチベーションが上がる可能性は十分にあります。
 これは結婚生活も同じです。関係が冷え切っているとき、夫婦はその原因を相手のせいにしがちです。しかし原因は相手にあるのではなく、相手の気持ちを理解することを怠っていた自分にあるかもしれません。
 私にも経験があります。私も妻との関係がうまくいかず、別居状態に陥ったことがあります。妻は長年うつ病と肝炎に苦しんでいたため、家事などの家のことはすべて私がやっていた時期がありました。私の心の中には「家族のことはみんな俺がやっているんだ」という傲慢な気持ちがあり、そのことが彼女を苦しめ、夫婦の溝を深めることにつながっていたのです。けれども決定的な亀裂が生じる前に、私は自分の傲慢さに気付き、態度を改めることができました。自分が変わることで、夫婦の危機を乗り越えられたのです。
 このインサイド・アウトの考え方は、『7つの習慣』の本全体を貫いている思考法です。そもそもコヴィー博士が唱えている「人生で永続的な成功を得たければ、まず自分の人格を磨かなくてはいけない」という人格主義自体が、インサイド・アウトの考え方に基づいています。
 また、第1〜第7までの習慣は、自分が変わることで自立した人間となり、他者と有意義な関係を築きながらより大きな成果を得ていくための習慣です。インサイド・アウトの思考法を身につけられないと、「7つの習慣」を体得することができません。

■ PCを高めるための習慣をするには
 私たちが「成果」を出すためには、まず「成果を生み出す能力」を上げる必要があります。牛においしいミルクを出してもらうためには、栄養たっぷりの餌をあげて健康な牛に育てなくてはいけません。その結果(Production)と成果を生み出す能力(Production Capability)の関係のことを、コヴィー博士は単語の頭文字をとって「P/PCバランス」と呼んでいます。PC(成果を生み出す能力)なくして、P(成果)はないわけです。
 ところがコヴィー博士は、以下のようなイソップ寓話の「ガチョウと黄金の卵」の話を例に挙げながら、実際にはすぐに成果を求めるあまりに、P/PCバランスに反した行動をしている人が多いと言います。
「ある貧しい農夫が飼っていたガチョウが、毎朝1個ずつ黄金の卵を産むようになった。農夫はその卵を市場に持って行って売ることで、やがて大金持ちになった。しかし、そのうち1日1個しか黄金の卵が手に入らないのがじれったくなり、ある日ガチョウを殺して腹の中にある卵をいっぺんに手に入れようとした。ところが腹の中には黄金の卵は1つもなかった。そして毎朝卵を産んでくれていたガチョウも死んでしまったのだった」
 つまり農夫はP(成果)ばかりを追い求めてしまったために、PC(成果を生み出す能力)を台無しにしてしまったわけです。
 この農夫と似たようなことをやっている人はたくさんいます。たとえばリーダーの中には、部下が10人いたとしたら、そのうちの優秀な2〜3人をフルに使うことで、すぐに成果を出そうとする人がいます。こうしたやり方をすれば、確かに短期的には成果は出るでしょう。しかし優秀な2〜3人以外の部下は、重要な仕事を与えられずに成長の機会を奪われますから、チーム全体の底上げを図ることはできません。彼らのモチベーションも大きく下がります。また、もし優秀な2〜3人の部下が異動によってチームを去ってしまったら、チーム力はがた落ちしてしまいます。
 これでは成果を持続させることや、より大きな成果を期待するのは難しくなります。ですから、目先の成果だけではなく、最大限の成果を長期にわたって得たいのであれば、PCを上げることに力を注ぐ必要があります。
 実は『7つの習慣』の中でコヴィー博士が述べている習慣の数々は、基本的にPではなくPCを高めるための習慣ばかりです。たとえば第1の習慣は「主体的である」ですが、2、3日程度主体性を持って生きたからといって、何か劇的な成果がすぐに得られるわけではありません。主体的な生き方を毎日続けることによって自分の中のPCが徐々に高まり、やがてPが生み出されていきます。
 そのためすぐに成果を出したい人にとっては「7つの習慣」は、まどろっこしく感じられるかもしれません。しかし、そんなときこそ、PCなくしては、Pはないことを思い起こしたいものです。「急がばまわれ」ということです。

■ 3つの段階「依存」「自立」「相互依存」とは
 ここまで『7つの習慣』の中に出てくる「人格主義」や「インサイド・アウト」といったキーワードを解説してきました。次の項目からは、いよいよ第1から第7までの習慣を具体的に紹介していきますが、その前に「7つの習慣」の全体の構成を見ておきましょう。
 コヴィー博士の「7つの習慣」は、以下の習慣から構成されています。

第1の習慣:主体的である
第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
第3の習慣:最優先事項を優先する
第4の習慣:Win-Winを考える
第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
第6の習慣:シナジーを創り出す
第7の習慣:刃を研ぐ

 このうち第1、第2、第3の習慣は「私的成功の習慣」、第4、第5、第6の習慣は「公的成功の習慣」と位置づけられています。
 また第7の習慣の「刃を研ぐ」は、第6までの習慣を身につけたところで、その習慣をさらに磨きをかけるための習慣のことです。
 まず、第1〜第3までの「私的成功の習慣」が目標としているのは、「自立した人間」になることです。大人になってからも、自分の生き方を自分で決められなかったり、何か問題が発生したときに人のせいにしてしまう人は世の中にたくさんいます。そうした人は、まだ「自立」ができておらず、「依存」の段階にあるとコヴィー博士は言います。そこで「私的成功の習慣」では、自分の人生には自分が責任をとり、自分の力で結果を出せる人間になることを目指すわけです。
 次の第4〜第6までの「公的成功の習慣」が目標にしているのは、「自立」の段階からさらに1段上の「相互依存」の段階に達することです。相互依存とは、他者とうまく関係を築きながら、より大きな成功を収めていく力のことをいいます。相互依存を実現できれば、一人で物事に取り組むよりも何倍、何十倍もの成果を上げることが可能になります。
 つまりコヴィー博士は、人間の成長段階には「依存」「自立」「相互依存」の3つの段階があると言います。そして「7つの習慣」は、私たちが依存から自立、相互依存へと成長の階段を駆け上がっていくときに、後押しをしてくれる習慣になるというわけです。
「自立」と「相互依存」とでは、明らかに相互依存のほうが達成難度の高い目標です。
 自立の大切さについては、多くの人が意識していますが、相互依存の大切さとなると意識している人のほうが少数派です。しかし私たちは仕事でも地域活動でも、チームをつくって行動します。チームで行動することのメリットは、異なる価値観や知識や知恵の持つ人が集まることで、新しい発想や相乗効果が生まれるところにあります。ですから自立ができたからといって、それで満足せずに、相互依存の状態に達することを目指したいものです。