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ITは農業変革の武器

2017.11.19

日本農業新聞 「論点」に掲載したコラムをご紹介します。

先日、新聞で「稲作を支える空中の目」という記事を読んだ。
北海道旭川市でドローンを活用した米の無農薬栽培に取り組んでいるという話である。
特殊なカメラを搭載させた小型ドローンで1000枚以上の写真を撮る。パソコンでデータを解析し地図上の濃淡で生育状況を確認し、次に大型ドローンで育ちが悪い場所に追肥や防除用の木酢を散布する。
2年前までは生育管理を目視に頼っていたが、目の届かないところでの生育ムラや害虫被害による収穫量の不安定が課題であったという。

ドローンは小回りが利く、価格が安い、操作が簡単、音が静か、情報に漏れがないといった特徴があり、営農者の労働時間の短縮だけではなく、緻密で正確なデータを提供する優れた武器である。ドローンはいまや農業だけでなく建築現場や物流関係などで大きな威力を発揮しているが農業との相性が極めていい。

農業における技術革新が期待される領域は、栽培技術や土壌など生産環境に焦点を当てた領域、輸送や保存など流通販売に関する領域などがあり、情報通信技術(IT)への期待が高まっている。さらに農業をやってみたいと考えている人や消費者に対するPRや情報発信することで就農者の獲得や消費者への直売などさまざまな可能性が開けるのではないか。
日本の農業の問題点は高齢化、後継者難、減少続ける農地、増える耕作放棄地、農業所得の減少などであるが、それに似た事象は産業界ではしばしば起こってきた。

私がいた東レの主力事業は繊維事業であるが、かって日本の繊維生産は世界を席巻したものの、中国などコスト競争力ある国の台頭で大幅な退潮を余儀なくされた。
その凋落は農業の比ではないほどの落ち込みだった。
その結果日本の合繊メーカーはその規模を縮小し利益を出せる会社は少なくなった。
しかし東レはユニクロという強力なパートナーと協同して消費者が求めるような製品開発をしたりサプライチェーンの短縮するなどして競争力を高め、いまや繊維事業は東レが展開する事業の中で最も収益の大きな事業に変貌させた。

客観的環境が悪いからといって手をこまぬいているのではなく知恵を出し切ると事態は変わっていく。
今後の農業を変革する武器であるITについても農業におけるIT化の市場規模はわずか165億円(2015年推定)にすぎないという。
農業を営む人たちの平均年齢が66歳でもあり、ITリテラシー不足があるのだろう。
IT導入の動きを活かし大きな成果に結びつけていくためには、地域の大学・自治体・JA・関係政府機関が協力して、IT活用をサポートできる人材の確保・充実、現場におけるIT利用の実証、知識や成果の共有促進などの施策により、営農者のITリテラシーの向上を図っていくことが望まれる。