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ネット活用・広域連携――一関スタイル

2017.7.17

日本農業新聞 「論点」(5/22)に掲載したコラムをご紹介します。

私は先日、岩手県一関市に講演で訪れたが、このとき震災を受けたこの東北の一つの市の躍動的な活動を知り感銘を受けた。
一関市は農産物、特産物を全国に売り込む「地産外商」を2012年から東京都内で始めた。
最初は都内のコンビニに一関の観光、物産等を紹介するパンフレットを置くことから始め、次いで都内の飲食店で一関の農産物を使った料理を提供した。「うまいもん まるごといちのせきの日」を定期的に開催し宣伝しファンを作っていった。そのファンはSNS(インターネット交流サイト)を駆使し一関の情報を発信する。
通算、ほぼ20回近くになった「うまいもん」には毎回新規の参加者が訪れSNSやクチコミで情報を流す。20人が1人200人の発信力を持っている場合、20人×200で4000人、さらにそれぞれ知り合い100人に情報を流すと40万件となる。
この結果一関の観光HPのアクセス件数は‘11年度が4万7千件であったものが’16年度は45万4千件と急増した。
「うまいもん」参加を契機に首都圏で一関市を熱烈に応援する組織ができた。
首都圏の大手企業に勤める女性管理職のメンバー(リーダーは東レの私の後輩)が「震災を受けた東北を何とか支援したい」との思いから「いちのせきをまるごと応援し隊」を自発的に組織したのだ。
震災から6年経っても毎年複数回、希望者(20名ほど)を募って一関を訪れ農産物・特産品の生産者と交流し、それを首都圏で宣伝した。
この「いちのせきを応援し隊」の活動が成功したポイントがいくつかある。
@ 「応援し隊」は都市で働く女性のニーズを生産者に伝え、商品づくりやPRを共にしたこと、
A お互いの取り組みは生産物や畜産物の紹介のみならず、文化や伝統芸能、名所にも及んでいて市全体の魅力を発信したこと、
B 市長及び職員が「応援し隊」の提案や改善事項に耳を傾け細かく対応するという官には珍しい現場力・双方向力があることなどである。
こうした応援を味方に持ちつつ、一関市は勝部市長のリーダーシップの下、地産の美味しい農産物などを武器に、世界遺産の平泉との連携による「食と農の景勝地」に名乗りを上げ(全国で5地区が認定)、奥州市や平泉町との連携による世界農業遺産を目指している。さらには日本の農業を世界に発信すべく観光農業公園構想の検討もはじめている。
要は自分だけでやるのではなく広域連携をすることでその活動の幅を広げ、加速している。
そう、いま一関市は燃えている。
創意工夫次第で東北という地方でも活性化できる材料はいくらでもあるということだ。
どうせわが故郷はとか、我が市(町・村)には何もないからとかいう後ろ向きの発想を捨て、前向きにチャレンジすれば道は開ける。