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障がい者とともに歩む喜びを

2016.10.10

文科省発行の「季刊特別支援教育」の巻頭言に載せたコラムを紹介します。

老子の教えに、こんな言葉があります。
 「率いるためには、従わなければならない」
率いるとは、教え導くこと。従うとは、「世のため人のため」という「志」に仕えるということ。すなわち人を教え導くには、世のため人のためとなる志に従って生きなければならない。老子は、そんな教えを説いたわけです。
でも、「世のため人のため」「志に従え」などと言われると、少々気が重くなりますよね。「頭ではわかるけれど、そんな自信はないよ」と思います。
正直にいうと、私自身も長らくこの教えに納得できずにいました。
人を教え導くのは、人のためでもあるが、自分の欲=自己愛のためでもある。「志だけに従って生きるなんて、そんなの無理だ」と考えていたのです。

しかし、そんな疑問に答えを見出だす機会が訪れます。
日本理化学工業の会長・大山泰弘氏との出会いです。
日本理化学工業は、粉の少ないダストレス・チョークを製造している会社で、知的障害者の雇用割合が7割を超えます。『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司著、あさ出版)という本で紹介されて注目を集めましたが、彼はそれ以前も50年にわたって、人知れずコツコツと知的障害者雇用を続けていたといいます。
それがいかにすごいことか。自閉症である長男の働き場所を探ってきた私には、そのご苦労が痛いほどよくわかります。
私の長男は高機能自閉症(アスペルガー症候群)で、高校3年の頃から幻聴がひどくなり、大学入試もあきらめました。新聞配達をしたこともありましたが、雨の日を極端にいやがり長くは続かず、作業所に入るも、周りに人がいると落ち着かないという理由から、半年で通所しなくなってしまいました。
 また、当時は若さゆえから激しく暴れ、日中妻と2人きりにできず、施設のそばにアパートを借りて一人暮らしをさせていました。長男はひじょうに多くの本を読み、その感想を誰かに話さないと落ち着かない性格だったため、毎週土日はそれぞれ2〜3時間、いっしょに散歩しながら話を聞いてやるという生活でした。
いくら世のため人のためとはいえ、このような障がいをもつ人間を雇用するのは並大抵のことではできません。いったいなぜ大山会長はそれをやり続けたのか。私の疑問に、彼はこう答えました。
「私も最初は障がい者を雇うなんてとんでもないと思っていました。養護学校の先生に懇願されて、しかたなく2週間だけ雇用したのです。ところが今度は社員たちが彼らを正式に雇ってほしいといいます。その熱心さに負けて雇ってみると、雇用した2人の障がい者は、雨の日も風の日も休むことなく通い、単調な仕事にも全力を尽くして働きます。施設にいれば働かずにすむのに、なぜ工場で働こうとするのか、私には不思議でなりませんでした」
大山会長は、その疑問をとある法要で訪れた禅寺の住職に投げかけます。すると、その住職から、こう言われたそうです。
 「人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、そして人から必要とされることの4つです。愛されること以外の3つは、働くことによって得られます。障がいをもつ人たちが働こうとするのは、本当に幸せを求める人間の証なのです」
大山さんはこの言葉に啓示を受け、以来導かれるようにして障がい者雇用を増やしていったといいます。
住職のいう「ほめられること、役立つこと、必要とされること」とは、すなわち「世のため人のため」に働くということにほかなりません。世のため人のために働くということは、相手だけではなく、自分自身の幸せのためでもある。教え導くために、志に従って生きれば、私たちはおのずと幸せになれる……なるほどそういうことかと、私は冒頭の老子の言葉を、腑に落とすことができたのです。

思えば私も、ビジネスマンとして働くなかで、「人のために尽くす」という経験を意図せず積み重ねてきました。どうしたら部下が仕事で結果を出せるようになるのか。そのことに全力を注いだ結果、多くの部下が一人前のビジネスマンに成長する姿に出会うことができました。
それは私にとって、何にも替えがたい喜びでした。部下の役に立ち、部下から必要とされることは、お金や地位では得られない、最高の幸せをもたらすかけがえのない宝となったのです。
もちろん、そこに至るのは簡単なことではありません。
なかには言うことをきかない部下もいます。飲み込みが悪く、仕事が遅い部下もいます。そんな部下は放っておいて、一部のできる部下に仕事をやらせるという人も少なくありません。
しかし、一部の部下にフルでがんばってもらうより、目配りしながら全体を少しずつ底上げしたほうが確実に成果は出ます。一部の人間に高いパフォーマンスを期待するより、それぞれが成長したほうが安定したチームをつくることができるのです。
そのためには、ひとりひとりの個性に注目し、それを大切に伸ばしてやることが不可欠です。一対一で話し合いながら、ちょっとがんばればクリアできる目標を設定し、クリアしたらまた一段高い目標を設定する。こうして、少しずつ成長を促すのです。
このことは、会社組織だけでなく、日本社会全体についても言えることです。
障がいのあるなしに関わらず、それぞれの能力を十全に伸ばす仕組みを設けて、その能力に応じて活躍の場を与える。「障がい者だからできない、無理だ」という固定観念は、もはや取っ払って考えるべきではないでしょうか。
パラリンピックを見て下さい。すばらしいアスリートたちの活躍は、もう障がい者などという域を超えています。人間の可能性は無限ではないかとさえ思えます。同じような感想を抱いた人も決して少なくはないはずです。
それぞれの人は必ず優れた何かを持っています。人より優れたものがない人でも、昨日のその人より一歩前に進むことで、力を伸ばし、自信をつけさせることが必ずできます。
そんな、障がい者とともに進む喜びを感じてください。
志に従って教え導くことが、きっとみなさんの宝になるはずです。