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部下をどう育てるか

2016.10.10

NHK 「視点論点」での収録したものを紹介します。

組織を預かるリーダーの役割は2つあります。
ひとつはその組織に期待されている目標を達成すること。もう一つは部下を育てること。つまり仕事を通じて部下を成長させることです。
自分の所属する組織を維持発展させていくためには、その組織を構成するメンバー全員の力を最大限に発揮させ、与えられた目標を達成しなくてはなりませんが、そのためにも日々部下を育てることが求められます。「優れたリーダーは事業を残すが、真のリーダーは人を残す」という言葉があります。人材育成こそが企業の盛衰を決めるわけですからリーダーの大事なミッションになります。

部下を育てるためには部下の心を掴まなくてはなりません。部下がいまよりもっと伸びていこうという気持ちにさせることが大事です。
つまり、部下が自分の上司の優れた能力や人間性を見習おうとか、この人に付いて行けば間違いないとかいった気持ちにさせることが必要なのです。上司が部下にいろいろアドバイスや指導をしても部下の気持ちがこちらに向いていなければ、そうした教育の効果は少ないでしょう。
ですから上司は人間として尊敬させるような働き方、生き方をしなければなりません。
例えば主体性を持って仕事に向かう、自分の目標をきちんと設定し日々努力する、メリハリの付いた仕事の仕方をする、人に思いやりを持つなどといったことができなければなりません。しかしそういった優れた能力を持った人は必ずしも多くありません。
ですから上司が心がけなくてはならないことは「部下を伸ばしてあげようという志を持つこと」です。そういう人は部下の心をつかみます。
「部下の教育」とは「部下の成長を願うこと」なのです。そして人は仕事を通じて成長するときに大きな喜びを感じるものです。

それでは部下をどう育てるかその具体的なやり方に触れたいと思います。
まず第一は部下に「良い習慣を付けさせること」です。
私は「良い習慣は才能を超える」と考えています。少々能力がなくても良い習慣を持っている人は毎日確実に成長していって才能ある人を抜いていきます。

そして良い習慣の中で最も大事なことは「人としてあるべき原理原則」を行うことです。
「人に会ったら挨拶する」「時間を守る」「相手を思いやる」「何かをしてもらったらお礼を言う」「間違ったことをしたらすぐ謝る」などといった人間としてなすべき基本動作をするよう日々指導することが大事です。
私は課長になってからはいつも、部下たちに「礼儀正しさは最大の攻撃力である」と言ってきましたし「礼儀正しさだけでこの会社の役員になれる」とまで言ってきましたが、ビジネスをしていく上でこういった礼儀正しさ、つまり「原理原則を実行すること」は相手から好感され信頼されることになり仕事がスムースに進みます。

良い習慣の二つ目は「戦略的に計画を立てる」ということです。同じ仕事をしても2週間かかる人もいれば1週間で済ませる人もいます。それは能力の差ではありません。
その仕事に対する重要度の評価と段取りの差です。
私は課長をしていた時はいつも部下に「業務計画書」を出させていました。1週間でやる仕事を列挙しそれぞれの業務をどのくらい時間をかける予定かを書かせるのです、いわば「仕事の工程表」作りです。例えば○○会議を3時間とか、××についての資料作りは5時間とか計画を立てたものを「それは少しかかりすぎだから1時間半でやりなさい」などと重要度に応じて修正させ、仕事が終わってから計画と実績の差を分析し改善策をお互いに議論するのです。
そうすると仕事が効率的にできるようになり、残業も減っていき成果にもつながりました。
たいていの人は仕事を与えられると、どのような精度でどのくらいの時間で遂行するかとは考えずに、とりあえず始めて終わったときが終わったときということになっています。これでは優れたビジネスマンとは言えません。

三つ目は「優先すべき業務は何かを正しく選択すること」です。私は「タイムマネジメントとは最も大事なことは何かを正しく掴むこと」だと思っています。つまり「タイムマネジメントというのは時間の管理ではなく仕事の管理」なのです。仕事をしていると新しい業務が発生してきます。古い業務を従来通りにしているとオーバーフローします。ですから価値の低くなった業務を止めなければなりません。タイムマネジメントというのは、ある意味業務を切ることなのです。

四つ目の習慣は重要な仕事は終わってからその結果をフォローアップし次のレベルにつなげることです。
少々の失敗は誰にでもあります。大事なことはその失敗を次の場面に活かし同じようなミスはしないことです。経験が大事なのではありません。それを「振り返り内省することで経験を識見に変えていく」のです。

五つ目は適切なコミュニケーションをとることです。人は一人で仕事をするのではなくチームでするわけですから人と適切なコミュニケーションをとりつつお互い協力・協調に努めるということです。
例えば、リーダーは仕事が発生した段階でその品質基準を決めてやらなくてはなりません。重要な仕事は終わってから報告するのではなく途中でチェックしこの方向でいいのか確認してあげなくてはなりません。
また仕事ばかりではなく、部下のプライベートな状況を良く理解しておかねばなりません。私は課長の時に1年で2回、春と秋に部下と約2時間ほど面談していましたが、最初はしばらく部下のプライベートなことを聴いていました。その話を聞いてから次に仕事の話です。部下は仕事をする前にいろいろな問題を抱えているのですからそういうことを理解してから仕事の話を聞いてあげることが大切です。

部下の育て方で良い習慣を付けさせる以外に部下に接する対応について気を付けるべきことがあります。それは、部下はそれぞれ能力も性格も違うので、その部下の個性にあった対応、指導の仕方をするということです。
なにごとにもよく考え率先して仕事を進める部下には最小限のアドバイスでいいでしょう。しかしそうでもない部下であればよくコミュニケーションをとって指導する必要があります。
上司が目配りしなければいけない人は仕事のできる部下ではなく、少し遅れ気味の部下です。管理職というのは部下の人生にコミットする、部下の人生に責任を持つ立場の人のことです。
そうした部下の教育に時間を取られるのですから管理職というのは時間的余裕を持たねばなりません。管理職が多忙ですと部下が相談に来ませんし、悪い情報も入ってきません。

できるだけ仕事は部下に任せ組織全体の管理と運営に時間を割きます。部下を育成したり相談に乗る時間を取らなければなりません。

人は何のために働いているかといえば、自分を成長させるためです。そしてもう一つは誰かに貢献するためだと私は考えています。
部下の成長に貢献することは上司の大きな喜びの一つでもあります。