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2010年9月アーカイブ

プロダクトアウト

 よく企業は「自社の技術や生産計画をベースに製品を投入するプロダクトアウトではなく、顧客ニーズを十分にくみ取るマーケットインを目指せ」とか、「あちこちの事業に手を出すのではなく、選択と集中が必須」と言われる。だが、そう断言できるだろうか。
 「プロダクトアウトとマーケットイン」だが、前回の経済観測で取り上げたように顧客のニーズをしっかり把握することは重要だ。ただ、マーケットインといっても、顧客の側が何が欲しいか分からないことも多い。自社の技術をベースに開発した製品が売れるなら、その方がいい。
 東レが開発してヒットした人工皮革でも炭素繊維でも、高分子化学の研究開発の中からプロダクトアウトとして生み出されてきた製品であって、特別に世の中の人たちのニーズを追求した結果ではない。いわば「作ってみたら、なるほどこれはいい」ということになって売れたものだ。
 また、「選択と集中」も、東レで先ほど挙げた炭素繊維や医薬などは、どれほど長い間、赤字の事業だったことか。「この技術を何とかモノにしたい、なるはずだ」という技術者と経営者の執念が今日の東レを支える事業に成長したのだ。
 もちろん赤字続きなら、その事業の幕引きを考えることは選択肢としてはある。だが、赤字だからといって、簡単に切り捨てず、その技術の潜在的な可能性や将来性をよく考え、革新的なコストダウンにも挑戦を続け、ブレークスルー(障害の突破)によって事業を成功に導くことが企業には大事なことだ。
 日本経済は中国など新興国の勢いに押されている。だが、企業が独自の戦略を粘り強く追求し結実させることが日本経済再生のカギを握るのではないか。


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人に会うことは必要か

私は政府の審議会の委員をしているが、しばしば審議会の開催される前に官庁の方に事前の説明をしたいと言われることがある。私はほとんどお断りしている。
そうしないと彼らは霞が関から浦安の私のオフィスまで来て説明して帰る、すなわち1人2時間半、2人で5時間、国家のために働いている人が貴重な時間を費やすことになる。審議会の委員は10人もいるのだ。
また最近、私に講演依頼のためある会社が5人も来社したことがある。そのうち3人は最初から最後まで一言も発言しなかった。その会社から往復すると3時間もかかるのにである。講演依頼のため5人も来る必要がどこにあるというのか。せいぜい2人だろう。
私にとっては1時間面談するよりメールで趣旨や場所、時間など伝えてきてもらったほうが記録で残っている分メールの方がありがたい。
その仕事をするのに本当に人に会わなくてはならないかはよく考えなくてはならない。ひょっとしたら丁寧なメールや電話で済むかもしれない。
それができたら2時間とか3時間とか自分の時間が増えるのだ。
私は投資信託を購入したがある銀行の営業マンは月に一回1時間私にアポイントを求めてくる。いろいろ話をして帰るのだが有益な話が少なく1時間は私にとって迷惑なので先日もう来ないで欲しいと断った。
一方、ある証券会社の営業マンは滅多に来社しないが貴重な情報をメールや郵便で送ってきてくれる。
3か月も来ないのでそろそろ来て欲しいと思っていると顔を見せるが用件が済むと30分で帰ってします。私にとってはありがたい営業マンである。
先ほどの銀行の営業マンは「私は何人ものお客回りで忙しい」が口癖だったがそのお客のひとりである私にとって彼の訪問は迷惑なのである。
私の欲しいのは的確な情報であって営業マンに会うことではない。


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戦略とは戦いを略すこと

会社には多種多様な仕事がある。中には重要な仕事もあれば取るに足らない仕事もある。だから私はビジネスマンは仕事が生じたときそれをいかにしないで済ませるかをいつも考えなくてはならないと思う。
例えば私がある組織の部長の時、有志で一泊二日の旅行に行こうという話が出たことがある。若い社員を幹事にしたのだが彼は観光の本を何冊か買ってきて予算2万円までで近場の温泉宿に泊まるプランを自分で作成しだした。
私はその作業を止めさせ旅行代理店に頼むように指示したが、代理店の担当者は朝頼んだら夕方までに5ケースのプランを持ってきた。
その社員は旅行のプランなど滅多に作ったことはないので時間がかかるうえ最適なプランになる保証はない。旅行代理店はその道のプロであるからミスなく素早くしかも無料でサービスしてくれる。
また、私の会社の若い男性が結婚の披露宴での主賓のスピーチを私に頼んできたことがある。
私は彼に「恥ずかしくなるくらい自分を褒めた自己紹介文を書きなさい」といって持ってこさせたが彼からそれをいただいたら私のスピーチの原稿は1時間で出来上がった。
自分で原稿を書いたら2日間はかかっただろう。
披露宴が終わったらご両親がやってきて「今日は本当に素晴らしいスピーチをありがとうございました。それにしても息子の子どもの頃のことまでよくご存じで」という。
それはそうだろう。書いたのは彼だからで、彼のことを一番よく知っているのは兄弟でもなければ友人でもない。彼自身である。だからそういったことは彼本人に頼んだらよい。
仕事はできるだけしないで済むならしないほうがいいしするにしても良く知っている人に頼んだほうがよい。


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口頭より文書が効率的

先日ある研修会で働き方に関する基調講演をした。私の講演の前にある凄腕の女性社長が大変早口で講演されていた。
私は最初、この方はお客様サービスの話をするのかなと思って聴いていたが、最後になって部下とのコミュニケーションの話であった。
この方はレジュメを用意されていなかったので聴き終るまで何の話かわからなかったし講演の後1カ月経ったらその時の話が何の話だったかほとんど忘れてしまった。
私は講演のときには必ず少し詳しめのレジュメを用意することにしている。
聴講する人は講演の始まる前にレジュメを見たら今日は何の話か知ることできる。
それに私のレジュメは詳しいので講演のときメモをとる必要があまりない。さらに講演が終わって何日も経っても私がどんな話をしたかほとんど思い出すことができる。
私は会社の仕事の中でそれほど重要でない仕事はもちろん口頭で済ませてもいいと思うが重要な仕事の場合は「口頭より文書が効率的」だと考えている。
第一文書にするということは自分の考え方の整理につながるし話を聴く相手方の理解を得られやすい。
特にお客さまや上司あるいは会議などでは簡単でいいので文書で手渡した方が記憶に残るし共有化できるし誤解も生じない。その文書をコピーして部下に渡し仕事の指示もできるというメリットがある。
課長のころ私は2週間に1度上司の部長に彼が暇な時間に30分のアポイントを入れ自分の業務の報告と相談をしていたがそうした時、必ず簡単でいいから文書で事前に手渡していた。人は相手がどんな話をしたいのか事前に知ることはいわば予告編を受け取ることで心の準備ができるし、その書類を保管しておけば過去いつどんなことがあったか記録されていて仕事を進める上で役立つのである。


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ひきこもり70万人

先日の内閣府の調査によると家や自室に閉じこもって外に出ない若者の「ひきこもり」が全国で70万人と推定されその予備軍も155万人という。
その理由は「職場になじめなかった」とか「就職活動がうまくいかなかった」などが多くちょっとした環境変化についていけない若者が増えてきているようである。
会社に入ってからも「仕事が自分に合わない」「人間関係がうまくいかない」「上司とうまくいかない」などさまざまなことで悩んだり転職したりする。
かつての高度成長期では、ある意味価値観を共有するところがあってそれほど迷うことなく一生懸命仕事をしたものだが現代の若者はある意味食べるには困らない、一人っ子で親への甘えがあったり守られた世界の中で育ってきた、などの背景がありこのような環境に対応不適な人が多く出てきたのだろうか。
最近テレビを見ていたら大学に入学した学生の5%が大学生活になじめず退学するという。そのため大学によっては先生や先輩がそばについて休んだらすぐ本人に電話し話を聞いたり悩み事の相談などして退学を食い止めているとのことだった。
落ちこぼれそうになる学生をスムーズに卒業させるのにはそうしたアシストが必要ではあるが基本的には強い人間を育てるシステムを作らなくてはならない。
育ってきた環境は理解できるがそれを環境のせいにしてはならない。
例えば欧米の資産家などは子どもを育てるために、お金を持たせない、しつけを厳しくする、勉強もスポーツもさせ自由と責任を厳しく教え自分たちの財産をしっかり守っている。
日本でもゆとり教育を捨て競争させながら闘争心を高め子どもを伸ばすことにチャレンジさせる学校が話題になり入学希望が殺到しているという。
やはり家庭も学校も社会も挙げて教育問題に取り組まねばならない。


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官から民へ

先日経済週刊誌を見ていたら「霞ヶ関をぶっつぶせ」という過激なタイトルがあった。
官僚受難の時代である。
また「官から民へ」のスローガンはいつの時代も話題になる。
確かに激しい競争社会の中で結果を出すことを常に求められてきた民間会社のシステムや人材を活用するのは有効であろう。
しかしそれも程度問題であり政府関係機関の要職に何でも民間人を採用することは慎重であるべきだ。
大体民間でトップの地位に着く人にはそれほどの人材がいないという問題がある。
その企業の営業畑や生産畑でその道ひとつできた専門家が多いことやあまりに多忙な仕事をしてきたため、他の分野の知識をあまり習得しないまま昇進してきているからだ。
そのため世の中のことや組織全体の経営戦略などについていえばほとんどの会社のボードメンバーは素人である。
その会社の副社長や社長になってから初めてさまざまな分野の勉強し情報が入り経営を学ぶことになるが経営者としては即席栽培でおおかたはプロの経営者とはいい難い。
つまりその会社のことやその業界のことはよく知っているが社会全体のことは深く考えたこともないし知識も少ない人がトップになるのが実態である。
もちろん「一芸に長ずるは他にも長ずる」ということもあるがそれは相当に優秀な経営者であって一般的ではない。
官庁の人でもその組織の仕事だけしかしてきていないという民間に似たようなところはあるが仕事柄民間の人よりははるかに広い視野や経験を持つ人が少なくないことは否定できない。
それに官庁は人事ローテーションなど民間よりも計画的で人が育ちやすい環境でもある。
「官から民へ」を唱え、異分野の人を使うべきだとマスコミはしばしば主張するががたとえば新聞社などに官の人を編集委員などに採用したらといえば「とんでもない」というだろう。
世の中の仕事というのはそれなりの専門性があって誰でもいいというわけにはいかないものだ。


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高齢者の介護を誰がする

最近「介護退職」という現象が起きている。40代50代の働き盛りの人が親の介護のために会社を辞めなくてはならない事態が多くなってきた。
その数は6年前に5万人といわれたが、昨年の統計では10万人と推定されている。
認知症はつい最近まで150万人といわれていたが昨年200万人を越えたという。日本の高齢化は急速に進むのですぐ300万人になるだろうから介護退職者の数は跳ね上がっていくだろう。
かつての大家族世帯は減少し、単身世帯、二人世帯が急増中である。
子どもは結婚しても親とは同居しないから老親は夫婦二人で暮らすことになるのでどちらかが介護の必要が起こると老々介護となる。一人になって体が弱ると介護する人がいないということになる。
また年をとっても未婚の子どもが多く子どもが親の介護をするケースも多くなっているが子どもはますます結婚しにくくなる。
家族による世代間の扶助関係の衰退は目を覆うばかりで今後は大量に発生する要介護者を少数の家族が面倒見ることは次第に困難になっていくだろう。
現在、特別老人ホームの入居待機者は40万人と推定されている。
これは介護の需要に対し圧倒的に供給が不足しているからだがその背景には経営面と人材面での参入規制があることも一因とされている。介護分野には自治体、医療法人、社会福祉法人以外が参入できず、また介護福祉士の資格取得も難しいからだ。
これらについて非営利組織(NPO)や企業にも介護の仕事ができるようにしてもっと安価で効率のよいシステムを導入すべきだし、介護には単純労働の場面も多いので難しい資格などいってないでそういう仕事をしたい人にもできる体制を早急に導入すべきだろう。
ぐずぐずしていると要介護者が溢れかえりこの国はどうにもならない事態になってしまうのではないだろうか。


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