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ビジネスマンのための論語
 
ビジネスマンのための論語(5回)

2015.6.28

子曰く、君子は能なきことを病う。人の己を知らざるを病えず


 優れた人物は自分の能力が及ばないことを気にかけるが、人が自分の能力を理解してくれないことを悲観したりしないものだ。

 優れた人は常に現在の自分をもっと成長させようと努力しているので、自分の未熟さを自覚する習慣を持っている。だから少しぐらい地位が高くなっても、もっと自分を磨くにはどうするかという志があり、自分の至らなさを自覚するという謙虚さがある。他人が自分のことを知っていようがいまいが、そんなことはどうでもいいと考えている。
それに対して俗人は、ちょっと出世して、例えば部長や役員になったとき、他人がそのことに気がつかなかったり、知っていても敬意を払わなかったりすると機嫌が悪くなる。
そういう人は自己評価が高く、その分謙虚さがないため成長が止まってしまうのだ。「人は自分を四十%のインフレで見て、他人を四十%のデフレで見る」
こう言ったのは、元検事の堀田力氏であるが、それは自分のことについては、いつでも言い訳ができるからだ。
「あのとき上手くいかなかったのは部下がミスをしたからだ」とか、「トライしようにもお金がなかったからだ」とか言い訳ができる。
それに対し、他人のことは結果しかわからないので「たまたまだろう」とか、「コネでもあったんじゃないか」とか、簡単に見下した評価をしてしまうのだ。
孔子は、「人の己を知らざるを病えず」と君子の有り様を表現しているが、能力あるビジネスマンにとって、自分の実力が周りから理解されないということは口惜しいものだし、第一、理解されなければ出世もできない。
もちろん、その人を評価するのは他人である。だから、それほど派手ではなくていいが、それなりの自己PRも必要だろう。
たとえば、「今回の値上げは、お客さまの抵抗があって当初の計画は難しかったのですが、日ごろの私との信頼関係もあり、実現しました」といったようなことだ。
説明しなければわかってもらえないことが、山ほどあるのも現実である。

子曰く、位無きを患えず、立つゆえんを患う。己を知るなきを患えず、知らるべきをなすを求む


 地位のないことを気にかけない。地位を得るための正しい方法を得ることを気に掛けることだ。世間が自分を認めてくれないことを愚痴ったりせず、世間が嫌でも認めざるを得ないようなことを成し遂げようと決心することが大事だ。

この章句は、内容的には、前の章句「君子は能なきことを病う 人の己を
知らざるを病えず」の続編ともいえる。
前の章句では、人が自分の能力を理解してくれないことなど気にするなと言い、
こでは、周りの人が気づくような実績を上げなさいという。
口惜しかったら仕事で結果を出してみなさいということだ。
孔子は正しいことをせよと言いながら、
「四十五十にして聞こゆること無くば、斯れ亦畏るるに足らざるのみ」とも言っている
つまり四十歳や五十歳になっても周囲に名前が知られなければ、大した人物ではないということだ。
このへんが孔子の現実主義者としての面白いところである。正しいことをやるにしてもきちんと結果に繋がるようにしろというわけだ。
ビジネスは、「頑張りました」、「努力しました」では済まない。仕事にはそれなりの結果を残さなくては意味がない。
マネージャーとは、決められたことを正しくする人をいい、リーダーとは正しいことをする人のことをいうのだが、正しいことをするにしても、それを実現してこそ世間に認められる存在になる。
「ビジネスマンになったら、やはり社長になれなくともできれば取締役、それが無理ならせめて部長になり人に認められる立場に就くべきである」
というのが孔子の、そして私の考えである。


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