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ビジネスマンのための論語
 
ビジネスマンのための論語(19回)

2018.7.17

君子は本を務む。本立ちて道生ず


立派な人間は根本のことを大切にする。初心を忘れぬことだ。迷いが生じたり、スランプに陥ったときは基本に還れ、根元が固まると道は自然にできる。
孔子の高弟、有若の言葉である。小さな基本の反復と積み重ねによって高度な段階に到達する。別なところで孔子は、「下学して上達す」と言っているが、これは「身近なところからコツコツと学び、その積み重ねによって仕事や人生の意味をきわめよう」ということで、この章句に通ずるものがある。私は常々、「良い習慣は才能を超える」と考えている。
少々能力がなくても良い習慣を持っている人は、確実に成長してやがて才能ある人を抜いていく。
良い習慣とは基本の考え方で、例えば仕事を始める前に計画を立てる、その仕事の重要度に応じた時間配分をする、フォローアップをする、人の話をよく聞くなどである。スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』という本の中に、「成功する人には原理原則がありそれを体得することが近道である」という記述がある。
コヴィーは、「原理原則を正しく学び、それを体得し人格に取り入れる」「人格は繰り返す行動の総計」で、その原理原則とは、誠意、謙虚、誠実、正義、忍耐、勤勉などをベースとしているという。そのうち、私的成功のために三つの習慣として、「人生の責任を引き受け主体性を発揮すること」、「自分の人生にとって何が大切か目的を持つこと」、「何が重要かを見定め重要事項を優先すること」を挙げている。生きていく上でこのような基本スタンスを自分で身に付ければ持その人の成長につながっていく。


君子は上達し、小人は下達す


君子は大きなことに通じ、小人は細かなことに通じている。
有能なリーダーを目指すなら、小さなことにとらわれない度量が必要だということである。もちろんそれはそうだが、この章句の解釈には気を付けなくてはならない。
ビジネスをしていて感じるのは、優秀な経営者は大きいことにも通じているが、現場で起こっている小さいこともよく知っているということだ。
私が在籍していた会社の社長は、毎年のように国内外の工場の現場を回ったり、株主総会の前にはスタッフの作成した何百という想定質問のほとんど全てに目を通して、当日どんな質問が出ても答えられるようにしていた。
質問が出ても大方は、自ら答えず担当役員に振ることが多いのだが、経営全般について、最もよく知っていたのはトップであった。
「戦略は細部に宿る」という言葉もあるが、現場で起こっている細かいことも掴んでいるからこそ、大局的に正しい判断ができるとも言える。
私はリーダーにとって最も大事なことは、今現場で何が起きているか、あるいは今経営の最大の問題点は何かなどを正しく掴む現実把握する力だと考える。
今、お客は何を求めているのか、社員は何に困っているのか、赤字事業の真の原因は何か、
そういった現実を正しく掴めばやるべきことは自然にわかってくるものだ。
決断力が大事だといっても、正しい現実把握もせず大きな決断をしてもたいてい間違うだけである。


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