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ビジネスマンのための論語
 
ビジネスマンのための論語(13回)

2016.10.19

季路、死を問う。曰く、いまだ生を知らず、いずくんぞ死を知らん


 季路が死について尋ねた。先生が答えた。「私はまだ生についてよくわかっていないのに、どうして死のことがわかろうか」
 孔子は自分は未だに生きる意味は知らないというが、別なところではまた違ったこ
とを言っている。

吾十有五にして学に志し、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順がう、七十にして心の欲する所に従って矩を踰えず

 五十にして天命を知ったという人が「生について知らない」は、ないだろう。
 これは、死後の世界をあまり問題としない孔子の現実主義、非宗教性がよく出てい
る章句で、死を考えるより現在を精一杯生きよと説いている。
死んだ後の世界を気に病む人がいるが、現実の世界でしなくてはならないことが山
ほどあるのだから、それに全力投球すべきということである。
 若いビジネスマンの中には、自分が偉くなったら会社をこうしたい、ああしたいな
どと考えている人がいるが、どうだろうか。まだ上級の管理職にもなっていない人が、
夢みたいなことを考える前に、現実にいま与えられた仕事を全力で成し遂げるべきだ
ろう。
 もちろん高い目標を設定することはその人の成長のために重要なことであるが、あ
まり先のことばかり考えていても無駄なことが多いものである。

夫れ仁者は己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す


 仁者の持つ本当の思いやりとは、自分より先に相手を立たせ、自分より先に相手を目的地に到達させようという心配りである。これは子貢が孔子に仁のことを尋ねた時の返事である。
 このことがどれほど難しいかは、自分の経験を考えればすぐわかる。
 例えば会社での昇進のとき、課長昇格の対象者がそのセクションに二人いたとしてポストが一つとしようか、そのとき自分は上がらなくてもいいから同僚のA君を昇格させて欲しい、というようなことを言っているからである。
 普通の人は自分のことで精一杯である。
 そもそも人のことを思いやるのも程度問題で、まず自分が独り立ちしなくてはならない。
 独り立ちし、実力が付き自信を持つようになって初めて他人を立たせる気持ちを持つことができる。
 他人を立たせる気持ちを持っている人は、かなり優れ者で他人に負けない自信を持っている人である。自分のほうが優れていると知っているからこそ、人を立て人を達せさせることができるのだろう。
 この章句は、優れた人の心構えとして自分より他人に手厚くしなさいという孔子一流の一般的なアドバイスであり、額面通りには受け取らないほうがいい。


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