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ビジネスマンのための論語
 
ビジネスマンのための論語(12回)

2016.6.3

子曰く、君子は食飽くを求むることなく、居安きを求むることなし。事に敏にして言に慎み、有道に就きて正す。学を好むと謂うべきのみ


 リーダーたる者は、腹一杯食べることや広い家に住むことを人生の第一目標にすべきではない。リーダーは行動は敏活に、発言は慎重で、有識者に批判を求める。そういう人は学を好むと言える。
 孔子が最も愛した弟子の顔回は、この章句にあるような清貧の生活だったが、孔子自身の生活レベルは上の下か中の上であったようだ。お酒も好きで結構ダンディな服装をしていたという。
 ノブレスオブリージュという言葉は、高い地位にあるエリートは世のため人のために尽くす義務を負うという意味で、そのようなリーダーに対する報酬は、お金や地位ではなく、周囲の人たちからの賞賛と尊敬である。
 業績に応じて報酬を決めることを、私は「虚妄の成果主義」と呼んでいるが、仕事で結果を出した人への報酬は金銭ではなく、次の仕事で報いるべきだと考えている。もっと難しい仕事、もっと面白い仕事を与えることでその人に更にチャレンジしてもらい、更に成長してもらうのだ。
 そういう意味では日本の賃金はアメリカと違って、学歴や地位によってそれほど大きな差をつけておらず、リーズナブルといえる。
 社長の報酬は、日本では(年三千万円〜四千万円で)社員平均の十倍程度だが、アメリカは(平均四億円で)百倍という。野球選手でも日本のプロ選手は約四千万円(二軍を含む。一軍のみでは七千万円)だが、アメリカは三億円でやはり異常に高い。ヤンキースの黒田博樹投手は十四億円で一年契約の提示を断ったというから、田中将大でなくてもみなアメリカに行きたがる。
 孔子のこの章句は、アメリカ社会からみればとんでもない考え方といわれるかもしれない。
 やはり日本は東洋の国、論語を尊重する国である。

子曰く、朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり


 朝に正しい真実の道が聞けたら、その晩に死んでもよい。
 温厚な孔子にしては、なんともラジカルな表現である。
『自分が変わるための15の成長戦略』という本がある。リーダーの育成やビジネスマンの能力開発などを手掛けるジョン・C・マクスウェルという人物が書いた。マクスウェルはその本の中で、「人生に大切な日が二つある。自分が生まれた日と、自分がこの世に生まれてきた理由を見つけた日だ」と言っている。
 自分がこの世に生まれてきた理由を見つけることは、「果たすべき使命を知ることだ」とも言える。人は教育を受け、さまざまな経験をしていく中で、自分のなすべき仕事やなすべき学問や研究を探り当てるのだ。
 そしてマクスウェルは、「それを知ったならそれを全力で実行しなさい」と言う。
 孔子の言うように、「正しい真実を知ったら、満足して夕べに死ぬ」のではなく、正しいことを世の中に広めたり実践したりしなくてはならない。
 物事の本質を知ることに意味があるのではなく、知ったことを行動に落とし込むことが大事である。
 孔子は多くの弟子たちに学問を教え、学問を究めたが、そうした成果を世の中で実現してこそ意味があるというものだ。
 例えば、企業の研究開発には基礎研究と応用研究がある。基礎研究とは純粋研究とも呼ばれ、新たな法則、定理などの「発見」を目的に行われる研究である。
 それに対して応用研究とはいわゆる「発明」で、基礎研究の成果を応用し科学技術の創出を目指すことだ。
 研究者の中には基礎研究に没頭し、法則・定理ばかり追いかける人がいるが、そうした基礎研究ばかりでは研究のための研究で、世の中の役には立たない。
 やはり、応用研究で実際の生活の上で役立つものを作りあげてこそ初めて意味ある成果が出たということになる。
 そういう意味では孔子の「夕べに死すとも可なり」というこの章句はいただけない。


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